小説置き場(宏成:名古屋)

『ヲタクに恋は難しい』宏嵩×成海 激推し小説書いてます

この子は俺の彼女

成海のステルス機能には脱帽するし、一見大人しそうに見えるのに、話すと人あたりの良さがすぐに滲み出る。多趣味が高じて色んな人と話すことに抵抗が少なく、話題も豊富に持っている。人間関係底辺な俺から見れば、それはもうすごいと思う。

思うけど。
成海がある人物から狙われているんじゃないかという話をアイババさんふたりの話を聞いてしまった。平然としていられただろうか、内心とてつもなく動揺と苛つきでどうにかなりそうだったから。

別の部署の白川、さんと言ったかな。何日か前にヘルプ応援で少し成海が担当していた仕事を手伝ったのがきっかけだったらしいが、ヘルプが終わってからもちょいちょい話しかけに来ていた。確かにパーソナルスペースの狭さに定評のある成海と、白川の距離が近くない!?と思う時があった。それは俺もよーく見ていた。だから、名前だって顔だって覚えてしまったんだよ。仕事しにお戻れ。

同時に成海の無自覚さに呆れつつ、正直物凄く苛ついていた。もう少し自覚して欲しい。
贔屓目で見ているのもあるが、まず成海は可愛い。小動物系の顔つきに、スラッとした華奢な体格(貧乳は別として)。先程も言ったが、多趣味のおかげで話題は困らせることはなく、ある程度どんな話も乗ってくれる。仕事のミスはまあ、多い方だろうが、やれば出来る子だから、仕事はちゃんとこなす真面目な性格。
あれ、俺の彼女ってスペック高くない?腐女子なことは置いといて、傍から見たら好物件。そりゃそうだ、付き合えたのが未だに奇跡としか言えないくらいな子なんだよ。

でもさ、その子、俺の彼女だから。

と、思った瞬間、白川の掌が成海の手を握った。

あー、もうダメだわ、一度煙草だ煙草。

ガンッと勢いよく立ち上がり、ガタガタと乱暴に椅子をデスクへ戻した。その様子に宏嵩の周囲は少しザワついた。
その行為とは対照的に、できるだけ顔に出ないように無表情で喫煙室へ向かった。



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あー、もう、この人しつこい。数日前にヘルプで来て、すぐ解散になったのに、なんで今また来てるの?自分の仕事はどうした!?
って言っても、ついヘラヘラしてしまう癖が出てきて、なかなかはっきり断れない。番号教えて、とかもう下心丸出しで引いちゃってるんですけど。

そうしてたら、どうしてこうなったか手を握られてしまった。咄嗟に手を引っ込め、すぐに離したが、白川さんはヘラヘラと笑ったまま。その様子にグーパンしてやろうかと思ったら、花ちゃんが『セクハラで報告しておこうかしら』ってナイスなこと言ってくれたけど、『またまた〜冗談きついですよ』って…いや、冗談じゃないのこっちだから、わたしドン引きしてますけど!?

というか、最初あたりの白川さんが放ってきた話題につい乗っかってしまったせいだ。原因は分かっていた。
こないだ公演開始した舞台を見たと、そのヘルプ仕事の最中に話題として話していたのだ。それがわたしも見たやつで!(腐女子じゃなくても、楽しめる舞台だから)結構幅広い世代が集まってて(腐女子からしたら非公式CPが熱い)、もちろん、推しのために空席を減らしたくて、宏嵩に付いてきてもらう形で1日2回公演を見たんだよ。
って、ココ最近で一番胸熱になったイベントだったもんだから、その話が出た瞬間食いついちゃって。そこから舞台の話で盛り上がって、なーんか妙に馴れ馴れしくなってきた、飲みに行って語りましょうよとか…あれこれまずいかも、って思ったらもう遅かった。ある程度で終わっておくべきだった、とりあえずヲタバレしなかっただけマシかも。

ただ、さっきからってゆうか、白川さんが絡みだした数日前から宏嵩の視線が、まあやばい。めちゃくちゃ刺してくる。あれ、絶対怒ってる。物凄い大魔王なオーラ、びりびり出してるんだけど。あー、ほら、SAN値チェック行ったよ、椅子の戻し方が雑だよ宏嵩くん。苛ついてるの、あれじゃあみんなわかっちゃうよ。
…って言っても、なんで苛ついてるかは、たぶんわたししか知らない。わたしが原因だもんね、絶対。

『白川さんはわたしがどうしかしてあげるから、二藤くんのところに早く行きなさい。』

花ちゃんがそう小さく言って、背中を押してくれたから、わたしは宏嵩を追いかけた。なんてありがたいアシスト。花ちゃんがどうやってどうにかしてくれるかは謎だけど、とりあえずまずは宏嵩だ。この問題は早くした方が絶対にいい。

誤解されたままは嫌だ。わたしの非は認めるけど、宏嵩には誠実でいたいの。



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喫煙室から出ると同時に、宏嵩はグイッと腕を引っ張られた。視線の先には成海がいて、ズンズンと小走りに引っ張って行くもんだから、仕方なく従うことにした。

人が滅多に来ない物置化してる部屋があり、そこにするりと自然にふたりで入った。ここはよく社内恋愛してる人達の密会場所となっている、と前に成海が言っていた。

「なに、どうしたの?」
「釈明しに来たの!」

成海の語尾が強くて、え、なんでおこなの?おこなのは俺だけど、と思ったが、ここはできるだけポーカーフェイスで。
だって、嫉妬してたなんてダサいじゃん。器が小さい男だと思われたくない。…いや、小さいけどさ、白川にだいぶ嫉妬してたけどさ。

「…俺、別に怒ってないけど。」
「そんなわけないじゃん、もう今だって怒ってる。わかりやすいよ、あんな視線でここ数日見られてたら…。」

あれ、今日だけじゃなくて、何日か前からってわかってたの?それは意外、できるだけ平然を装ってたのに。

「はっきりした態度取らないわたしに苛ついてたんでしょ?」

おお、珍しく大正解。まあ、成海だけじゃなくて、白川本人には成海の倍以上苛ついてるけど、とりあえずそこは置いておこう。

「…自覚してたの?白川に言い寄られてるって。」
「番号教えてって言われたけど、彼氏いるから無理です、って断ってるし、それでもしつこいからしつこいですって言っても食い下がらないし…でも、仕事の話もちょいちょい挟んできて、話さないわけにもいかなくて…。」

たぶん愛想笑いしながら言ってたんだろうな、成海からしたらはっきり言ったつもりだったろうが、相手が悪かったのかも。冗談を冗談だと思わない人だったかな。
どんどん声が小さくなっていく。

「…ごめん、これただの言い訳だ。正直、もうどう断ればいいかわからなくて、諦めてくれるの待ってたのかも…。」

成海は俯きながらぽつりぽつりと言った。涙声になってきてたし、成海も自覚があったなら…これ以上やめようかな。

「…俺、簡単に触られるの、結構嫌だったんだけど。」
「うん、それはわたしも嫌だった。手汗すごかったし。」

ゴシゴシとスカートに擦り付ける掌。

「…ごめん、ホントに気をつける。」
「ホントは話さないで、とか言いたいんだけど…まあ、無理だよな、仕事に支障をきたすし。まあ、でも、成海に自覚があっただけ、とりあえず良かった。」

宏嵩の大きな両手が、成海の両手を包んだ。

「え、さすがにあの白川さんの態度には気がつくでしょ、わたしそんな鈍感?」
「…。」

宏嵩は目を逸らして回答をくれなかった。
んー、わたしそんなに危なっかしいかな。…でも、あのお祭りの一件でだいぶ心配掛けたな。気を付けてるんだけどな、これでも。

「本当にごめんなさい。」
「…成海が俺の気持ちわかってくれたなら、それでいいよ。」

宏嵩があまりにもそっぽを向いていて、あからさまに拗ねている様子が珍しい。というか、さっき白川さんの名前、ちゃんと覚えてた。相変わらず相葉さんと馬場さんの違いも微妙なのに…それって相当白川さんに対して嫉妬して、目に耳に焼き付いちゃった感じ?そう思うと…。

「ちょ、なんで笑ってんの?」
「わ、笑ってないデス!」

思わず口元が緩んでしまったのを、宏嵩に見られてしまった。咄嗟に口元を両手で覆って隠した。

「なに、俺の器の小ささに笑えてくる感じ?」
「そうじゃなくて。とゆうか、わたしのこと、全面的に受け止めてくれてるから、器の大きさはずっとでかいなって思ってますよ。」

ヲタクのことも含めて、言ったのだが、宏嵩の耳が赤くなった。え、そんな照れさせること言ったかな?
そう思ったら、結局口元の緩みはおさまらなくて、ふふっと笑いが漏れてしまった。

「…もういい。」
「あー!ごめんて!ホントにごめんなさい!」

成海は慌てて宏嵩に抱きついた。

「ホントにごめん、何でもするから機嫌直して?ね?」

つい出てしまった“何でも”。成海は言ってしまったことをすぐに後悔し、身体をパッと離した。
ふーん、と何か含んで言いながら、宏嵩はジリジリと詰め寄り、成海は後ずさる。結局テーブルに腰が当たり、成海は逃げれなくなってしまった。

二次元であれば、こんなシチュを推しCPがしてたら…もうそれは興奮間違いなし!なんだが、今のこのリアルな状況だと、こんなにもドギマギしてしまうなんて思わなかった。

「成海がどうにかして俺の機嫌直してよ?」

ああ、これはガチなやつだ。恥ずかしさだけで逃げてしまえば、きっとこの気まずさは尾を引きそう。
宏嵩がナニをして欲しいか、もうわかってる。ただ、もう顔から火を吹いてしまいそう、恥ずかしさで熱い。

が、成海はもうヤケクソになって、宏嵩の首元のネクタイをグイッと引っ張る。目を閉じながら、成海は自身の唇を無理矢理押し付けた。宏嵩の目がいつもより倍に開いたかと思うと、少し目を細める。そして、後頭部に右手を添えると、宏嵩も押し付け返した。
もう、それはとても優しいキスだった。

「これでどうだ。」

唇を少し離し見つめ合うと、成海が乱暴に言った。顔が真っ赤になってるであろう、見ないでほしい。こんなに羞恥心満載なキスははじめてだ。

「嬉しい。」

宏嵩は落としたように笑った。あ、これは機嫌が直ってる。

「まあ、でも、まだ足りないかな。」
「え。」

そう言った宏嵩は成海の両脇を掴むと、ヒョイと後ろのテーブルへ座らせた。自然と同じ目線になり、宏嵩の左手が後頭部を掴んだかと思うと、乱暴に唇が塞がれた。すぐに侵入してくる宏嵩の舌。成海の舌へ執拗に絡めてくる。

「ん、ふ…ぅ…!」

成海は反射的に逃げようとしたが、宏嵩の力が本当に強くて逃げられない。たまにできる呼吸、激しいキスにどんどん息遣いもあがる。宏嵩と成海の舌が絡まるたびに、粘着音が静かな部屋にひびいた。

「は、あ!ひ、ひろ…た…!」
「ちょっと黙って。」

薄目で宏嵩を見ると、バチッと目が合う。最初から目を開けたまましていたようで、これまた一気に火照る顔。

「〜〜〜ひ、ひろ…ぁっ!」

成海はグッと声を飲み込んだ。宏嵩の舌は首筋を這ったのだ。
でも、ここはオフィス。壁とドアがあるだけで、今まさに廊下を誰かが歩いてるかもしれない。そう思うと、成海は両手で自身の口元を押さえつけて、宏嵩の与えてくる刺激に耐えた。自然と瞳が潤む。

「成海。」
「〜〜〜んっ!」

耳元で名前を呼ばれたかと思ったら、耳を甘噛みされた。声にならない声がつい漏れてしまった。
そして、宏嵩は左手で成海を抑えると、唇を耳の後ろ側に押し付けた。

「あ、ちょっ、ひろた、か…ーーー!」

静かな部屋にチュゥと吸い付く音が響いた。そして、ようやく成海は解放された。成海ははあはあと荒くなった息を落ち着かせる。

「も、もしかして…痕…付けた?」
「うん、ここに。」

宏嵩は成海の耳の後ろに触れた。びくりと身体が反応してしまった。宏嵩の表情はとても満足そうにしていて、なんだかやられた感でいっぱいになって、正直悔しい。

「髪の毛下ろした方がいいかもね。これだと見える。」
「み、見えるとこに付けないでって言ってるのに…!」
「別に俺は見えてもいいけど、だって、誰かの彼女ってわかるじゃん。」

成海はまたかぁーっと顔が一気に火照った。飄々と軽く言ってのけてるけど、それ相当な言葉!
結構なこと言ってる割に、なんだか余裕そうで…でも、宏嵩めちゃくちゃ機嫌良いな。

「あと、今日俺ん家ね。」
「今日!?」
「頑張って定時に上がってね。バス停で待ち合わせ。いいよね?」

もう拒否権はなくて。成海は小さく、ハイ、と答えると、宏嵩は目を細めて笑った。そして、テーブルにもたれかかりながら、成海の耳元へ顔を寄せる。

「あと、今日帰さないから。覚悟しといてね。」

成海はついポカーンとしてしまった。そんな成海の頭をくしゃくしゃと撫でると、宏嵩は先に部屋を出て行ってしまった。

いいだけ振り回して、言い逃げして行った宏嵩。成海は顔を両手で覆いながら、足をバタバタとぶらつかせた。
今日の宏嵩は、ちょっと…いや、相当男だ。わたしにはアダルト過ぎてどうにかなってしまいそう。

こんな状況、リアルであるなんて!というか、明日も出勤日なのに、今日はどうなってしまうの!?

成海はもう腹をくくるしかなく、とりあえずまずはこのふにゃふにゃに溶けきってる表情を、どうにか引き締めてからデスクに戻らないと。これは絶対花子からのツッコミ回避はできそうにない。



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俺の今の顔ってどのくらい腑抜けた感じになってるんだ?
さっきまでの醜い嫉妬心と苛つきが、まあ、綺麗に消えている。成海が素直になってくれたのはもちろん一番だったが、予想より斜めのあんなキスは相当嬉しくて。プラス、あの恥ずかしがって赤くなって、でも、喧嘩腰にも聞こえる『これでどうだ』は反則だ。可愛いにも程がある。
少しイジメ(イチャつき)過ぎたか。もう少し自重するべきだった、だって、成海の身体の火照りを目の前にして、我慢する方が無理な話だ。そうさせたのは俺だけど。正直もうあそこでめちゃくちゃにしてしまいたかった。我慢できた俺すごいわ!

まあ、とりあえず、白川のことは成海自体も警戒してるということがわかっただけ良かった。ちゃんと俺が嫌なこともわかってくれてたみたいだし…というか、俺って器が大きいと思われてたのか。(成海の趣味のことは半分諦めながらも)成海が好きなことしてて笑ってるときが好きなことは、もう大々的に公言してるよね?これって心が広いことだったのか、俺は素直にそう思ってただけなんだけど。
(成海の推しへの愛が強くて)小さい嫉妬はよくするし、(締切間近なんて特に)あまりにも構ってもらえず実はいじけてゲームに走ってたり…自分では毎回余裕のなさと器の小ささを実感していた。ひた隠ししていたおかげで、成海の中の俺ポイントが減ってなくて良かった。

「二藤。」

後ろを振り向くと、樺倉がいた。

「さっき、あんまりわかりやすかったぞ?」

少し半笑いの樺倉。さっき、と言えば…ああ、煙草前のときかな。

「あー、さすがに俺小さいっすね、気をつけます。」
「いや、あれはさ、わかる。超わかる。俺だってそうなるわ。」

樺倉は宏嵩の肩をポンポンと叩いた。
樺倉自体も遠くから見張っていたようだ。成海、というより、一緒に巻き込まれてしまっていた花子がメインだと思うが、気が気ではなかったようだ。

「根回ししといたから、もうたぶん来ないから安心しろ。」
「え、どうやったんすか?」
「あいつ所属の部署に俺の同期がいるんだが、そいつに頼んで“迷惑してる”ってやんわり伝えておいた。そしたらさ、あいつ、自分の部署でも仕事そっちのけでまあ、あんな感じらしくて、たぶん今頃、上にお灸据えられてると思うぜ?」

仕事しろよって感じだよな、と笑いながら言う樺倉はさらに続ける。

「あと、お前の苛つきに周りビビってたけど、“ゲームの調子が悪い”みたいな、まあ、適当に理由付けといたから、なんか突っ込まれたら合わせとけ。」
「何から何までありがとうございます。」

ああ、樺倉さん神か。間違って拝まないようにしないと。

「…んで、機嫌は直ったのか?」
「まあ、はい、ある程度は。」

素直にこたえた宏嵩に、それなら良かった、と控えめに笑う樺倉。今日はっていうか、これからも本当に頭が上がらない。

「でも、もし、次ああやって絡まれてたら、何とかしたいと思います。」
「お前ならできるよ。」

樺倉は違う部署へ書類を持っていく途中だったようで、その場で別れた。

とりあえず、樺倉さんのおかげで、もうあの顔を(ほぼ)見なくて良くなった。大変有難い。本当なら彼氏の立場として、どうにかしてあげたかったが、そもそも秘密にしている彼氏彼女事情。うまくかわせるか、具体案は思い浮かばなかったが、今度は自分の力で守りたいと、そう思いながらデスクへ向かった。



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「どうやって二藤くんの機嫌直してきたの?」

成海がデスクへ戻ると、白川はおらず、ニヤニヤしている花子に小声で聞かれた。

「え、別に、何にもしてないよ!ちゃーんと謝っただけ。」

できるだけ平常心で。
あの部屋であった一件をできるだけ思い出さないように、絶対花子に聞かれるだろうから、デスクへ戻るまでに言い訳を考えてきた。テンションもいつも通り、いつも通りで!

「ふーん、怪しい〜。」
「別に怪しくないよ、やっぱり素直な謝罪が一番でしょ!」

花子の納得は結局もらえなかったが、優しく笑いながら、良かったじゃない、と言ってくれて、ああもう花ちゃん好き!となってしまう。

「まあ、でも、彼、とても機嫌が直って、気持ち切り替わってるみたいだから、つい笑っちゃったのよね。」

クスクスと笑いを堪える花子の視線の先を、成海も追う。宏嵩がもうこれでもかと思うくらい、仕事をバリバリにこなしている。
…定時で上がらなきゃいけない理由があるからだ、と成海は思い、先程のことを思い出してしまいそうになった。
が、わたしも仕事しよ!もう考えたらまずい、絶対顔に出てしまう!

「あら、成海も随分張り切るわね。」
「いや、ほら、お詫びとして、今日宏嵩におごることはお約束してさ!」

自然だったか不安に思ったが、とりあえず花子は納得してくれ、わたしたちも負けてられないもんね、と付け加えて仕事を再開した。

ああ、もう、宏嵩があんなこと言うから、手元が狂う。残業だけは避けなきゃ、せっかく機嫌が直ってるんだ。
…でも、宏嵩ん家に行ったら、わたしどうなっちゃうの?

成海はガバッと書類へ向き合う。考えないように、今はとにかく仕事!成海は自分を鼓舞させて、残りの書類を片付け始めた。



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定時きっかりにスマート退社する宏嵩が見た成海は、仕事はちゃんと終わってるのに帰り際に捕まってしまったようだった。たぶん、明日の業務連絡だろうから、遅くなることはなさそう。それを横目に見ながら、宏嵩は、お先です、と最低限の周囲に言って、バス停へと向かった。

バス停の近くのベンチに座り、陽が落ち始めた空を見上げた。
今日の俺はとにかく感情の起伏が激しくて、自分でも珍しかったななんて思う。
成海はこれが平常運転だから、見てて飽きない。大好きな新作スイーツを食べたときの笑顔とか、推し(♂)が彼氏と喧嘩してしまうエピを悲しそうに語る表情とか、貧乳と馬鹿にしたときに結構ガチめに怒るところとか…まあ、あとはセックス中のあのとろけきった甘ったるい表情とか。
そういうことは彼氏である俺の特権だと思う。樺倉さんや小柳さんへももちろん見せる表情はあっても、俺しか知らない成海は俺だけの成海。

付き合いたいと思ってしまってから、時間を要して、ようやく彼氏というポジになれたのだ。易々と逃すもんかと思いつつ、でも、どこか不安で自信が無い。
成海は俺の器が大きいと言っていたけど、(そりゃあ嬉しかったが)俺自身そんなまさかと思っている。

この独占欲はどんどん溢れてしまってるから。

成海のことはもちろん信用している。あんな男になびくわけもなく、単にいつものヘラヘラが発動して、上手に断れなかった、ただそれだけ。
なのに、自分の中の…劣等感なのか。ずっと人と極端に関わらなかったことで起こる、対処しきれない事項。ゲーヲタ廃人な人間関係極薄な俺より、(やかましくても)周りと自然に馴染める、一般的なああいう男の方がいいんじゃないのか?

もう、何度こうやって無限ループしてんだろ。考え出すと止まらない、自信が皆無なせい。

そういう考えを払拭するのは、やはり。

「宏嵩!」

走ってくる笑顔の成海。呼ばれた名前に一気にこころが躍る。
躓いて、よろけた成海を間一髪で受け止めて、つい抱き締めてしまったが、人目を気にしないでいいや、なんて開き直って、ぎゅう、とより強く抱き締めてしまった。
自分の腕の中にすっぽり包んだ愛おしいこの子を抱き締められるのは俺だけで、離してやらないと、そう思った。



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帰り際に業務連絡で捕まってしまって、宏嵩が退社したのを横目で見ながら、早く終われー!と思っていた。
あの部屋での出来事はちょいちょい思い出しては、いや集中!と繰り返して、それでもなんとか残業は避けれた。バス停で待ち合わせ、とは言っていたが、てっきり一緒にバス停まで行けるものだと思ってたのに。

今日までの数日間のことは、やっぱりわたしに非があると認めざるを得なかった。もっとはっきり断らなきゃ、ああいう人は諦めてくれない。こちらの愛想笑いを、愛想笑いと思ってくれずにそのまま受け止める人なのかも。それはとても厄介だから、最初っからちゃんとはっきりしておけば宏嵩が嫌な気持ちになることは避けれただろうな。

あんなにあからさまな嫉妬ははじめてだ。いや、妬かせたかったわけではないが、態度がもろに出てたから、正直ヒヤヒヤしてしまった。付き合っていることがバレてしまえば…まあ、そのときはそのとき考えるとして、それよりもガチギレ寸前の宏嵩の凄みったら半端ないからな。もう周りドン引きしちゃう。いつものポーカーフェイスはどこへ行ったんだ。

…失くしたのはわたしのせいか。

それを失くすほどに”俺の彼女“という独占欲が前面に出ていたことが、それはもう本当に驚いた。わたしの独占欲もさながら、宏嵩に愛されてる感がとにかく酷く伝わる。

これは彼女として、最高じゃない?
怒らせてしまったことは棚に上げちゃって、まずはいつも以上の宏嵩の想いを大事にしたい。
そして、やっぱり宏嵩に早く会いたい。

(宏嵩!)

小走りにバス停へ向かうと、見慣れたスーツがベンチに座って空を見上げていた。いつもは隙間時間のゲームは欠かさないというのに、今日はどうしたもんか。やっぱり何かしら企んでるのかな。
そう思って笑ってしまったけれど、それ以上に宏嵩を見たら自然と顔が緩んでしまう。

「宏嵩!」

名前を呼ぶと、宏嵩が少し笑ってくれたように見えて。そうしたら、油断して躓いて、あ、これヤバイ。
と思ったら、宏嵩がナイスキャッチに受け止めてくれた。ありがとう、と言おうとしたら、人目を気にせずぎゅう、とされてしまったので、あまりの驚きで言葉が出なかった。ここ公共の場な上に誰が見てるかわからないリスクもあって…なんて思ったけれど、宏嵩とのハグはなんでこんなに安心するんだろうとも思って、結局お礼を言うタイミングを逃してしまった。

致死量のやさしさ

宏嵩が落ち込んでいる話。



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昼休憩の際に、明日は休みだしゲームやり込みつつ、やはり成海と一緒に居たくて、

『今日宅飲みいかがでしょうか?
(((o(*゚▽゚*)o)))』

とテンション高めに送ってみたところ、

『御意(^ε^)-♡』

なんとも可愛らしい顔文字付きでの返信があり、不覚にも口元が緩んでしまった。
煙草を最後に一口大きく吸い込んで、もみ消しながら吐き出した。
こうやって先手打ってメッセージをしておけば、TL警備も甘くなり定時上がりに拍車を掛けられるだろう。宏嵩自身も嬉しさを糧に、残りの仕事をちゃっちゃと片付けてしまおうと思いながらデスクへ戻った。


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しかし、今日に限っていつもと逆。なんと宏嵩が定時で終わらすことができず、定時を過ぎ、今の時刻は20時近く。
宏嵩が直接ミスしたわけではないが、連携ができていなかった、ということが致命的だった。宏嵩他にも数名残業となってしまっていた。

「二藤、お疲れ。なかなか大変だったな。」

その内の一人、樺倉さん。…と言っても、樺倉の性格上、自分も残れます、のように自ら進んで残業してくれていた。

「お疲れ様でした。」
「あんま気にするなよ。次から、な。」

慰めてくれたのだろう。
このあと一杯行くか?と聞かれたが、今日はもう帰りたい。

「今日は…すみません、また今度で。」
「いや、気にすんな、ゆっくり休め。」

お疲れ、と周囲に言いつつ、樺倉はオフィスを後にした。



成海はというと、残業なく定時上がりだった。頑張ってくれたのだろうが、結局俺がいつ終わるか分からなかったので、

『今日、やっぱり止めておくよ(´・ω・`)スマヌ』

と一言送っていた。
せっかくの週末、好きなことをしながら好きな人といろいろしたかったのに。こんな日もある、と思いつつ、あからさまにガッカリしている自分がいる。

スマホを見ると、メッセージが1通。

『終わったら電話してちょ(`・ω・´)キリッ』

成海からだった。ちょ、って。
宏嵩はお先します、と一言言って、オフィスを出る。エントランスあたりを歩きながら、成海の言う通り電話を掛けた。

『宏嵩、お疲れ様!大変だったみたいだね。』

成海の嬉々とした声に、疲れた身体とこころが素直に喜び、同時に会えなかったことをよりガッカリに思う。

「んー、まあね。てか、今日誘っといてすまんね。」
『大丈夫ですよ。時に宏嵩どん、今どこ?もう家?』
「いや、まだ…今会社出たとこ。」

宏嵩はゆっくりバス停へ向かう。

『もしさ、良かったらわたしん家、来ない?実はご飯作ったんだけど。』
「え。」
『疲れてるだろうから、無理にとは言わないよ!もし、良かったら、ね。』

思いがけないお誘いに、宏嵩はつい立ち止まった。

『宏嵩?』
「いや、行く!すぐ行く!」

宏嵩は食い気味に言った。成海はクスクスと笑いを零す。

『ゆっくりでいいよ、待ってるね。』
「うん、待ってて。」
『あ、あとさ!』
「なに?」
『…その、もし良かったら…泊まってって、よ。』

これまた思いがけないお誘いで、宏嵩は自身の表情がなんとも酷く緩んでしまっていることがわかった。

「じゃあ、パンツ買って行くわ。」
『シャツも必要じゃない?』

成海は笑いながら、あとでね、と言って電話が切れた。
宏嵩の足は自然と速くなる。さっきまであんなに気分が沈んでいたのに、自身のこころはなんて安いんだ。



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「おかえり、宏嵩!」

インターホンを鳴らすと、成海が満面の笑顔で出迎えてくれた。“いらっしゃい”ではなく、“おかえり”がなんだかくすぐったかったが、ただいま、と素直に返しながら部屋へ上がった。

「もしかして、ご飯食べてなかったの?」

部屋に入るとラップが掛けられた小鉢が並んでいた。2人分、食器もセットされてある。

「味見程度はしたけど、宏嵩と食べたかったしね。」

宏嵩はバッグを部屋の隅に置きながら、スーツの上着を脱ぐと、成海はすかさずハンガーへ掛けてくれた。成海がキッチンへ向かうので、ネクタイを緩めながら宏嵩も成海の後に続いた。

「手伝うよ。」
「疲れたでしょ、座っててもいいのに。」

成海はニコニコしながらコンロに火を付け、鍋温め直し始める。その間に冷蔵庫からサラダやら何やら出したので、宏嵩はそれをテーブルへと運んだ。
カレーの匂いがする。

「簡単なものばっかで申し訳ないけど、どんどん食べてね。」

宏嵩自体、ゲームに主を置くせいで食事に関しては淡白なところがある。食欲旺盛、とまではいかないので、とりあえず食べやすい(作りやすい)カレーをメニューにしてみた。あとはサラダにほうれん草のお浸し、これは成海が普段作り置きしているものを少々。

「豪勢だね。」
「そう?まあ、普段の宏嵩くんは、こんなに食べないか〜。」

男の一人暮らし、食べるものなんて買ってきた惣菜やらつまみになるものばかり。こんなちゃんとした食事は久しぶりだ。
成海が俺ん家に来るときはもっぱら出来合いのものをつまむ程度。前にも成海が炒飯を作ってくれたことはあったが、こんなにできるとは。

「とゆうか、ちゃんとしたご飯作ったことなかったよね。今度はもっと頑張るから。」

成海は2人分のカレーを持って、テーブルへと置き座った。宏嵩にも座るように促す。

「いやいや、これで充分だよ。美味しそう、食べていい?」
「どうぞ召し上がれ。」

いただきます、と律儀に手を合わせた宏嵩。そして、食べ始めたので成海も同じように手を合わせて、いただきます、と言って食べた。

「美味しい、美味しいよ。」
「それならよかった!」

終始ニコニコと機嫌の良い成海を横目に、宏嵩はパクパクと食べ進めた。
疲れた身体でひとりの部屋に帰るはずだったのに、思ってもみなかったお誘いに、まさかの手作りご飯まで付いていて、笑顔の成海が居てくれる。宏嵩のこころがどんどん満たされていき、食欲まで湧いてくる。本当に美味しくて、こんな食事は久しぶりだった。

「おかわり。」
「珍し!宏嵩くん、少食なのに〜カレーが好きなの?」

宏嵩の空になった皿を持って、成海がまた用意してくれた。

「カレーが好きってより、成海が作ってくれたから、すげー美味く感じてる。」

ぽろりと出た本音。宏嵩はしれっと言ったけれど、成海にとっては最高の褒め言葉で。
さっきからニヤニヤが止まらない。

「来てくれてありがと。」
「いや、こっちこそ誘ってくれてありがとう。マジで嬉しかった。」

宏嵩がやたらと素直だ。そのせいで終始口元が緩んで仕方ない。
今日は会えないと思ったし、疲れてるだろうから誘うのを止めようかとも思った。でも、なんだか宏嵩だいぶ参ってる様子だったし…(簡単な)ご飯作るくらいならわたしにもできるし、少しでも疲れを取ってほしくて。
誘って良かったな。宏嵩の機嫌がすこぶる良くなってる。

成海は宏嵩の食べっぷりを見ながら、改めてそう思った。


[newpage]

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「今日のこと、なんか聞いてた?」

ふたり並んでキッチンで後片付けをしていた最中。宏嵩は濡れた皿を拭きながら、ボソリと切り出した。

「んー、特別何も。デスク離れてるし…ただ、なんかあったんだなーとはわかったよ。」

宏嵩周辺のデスクがザワついたのが、定時も見えてきた16時過ぎたあたり。何やら慌てて電話をしたり、係長が指示を出していたのを見ていた。隣の席の花子が『なんか伝達がうまくいってなかったらしいわよ』と、小さく教えてくれた。ただ、それ以上はよく分からず、結局定時近くになり、宏嵩からの今夜キャンセルメッセージ。

「宏嵩、あのバタバタしたあたりから、話しかけんなオーラ出しまくりだったし、目も座ってたし、なんならSAN値チェックも行かないし、あーこれだいぶ参ってるんだなっては思ったよ。」

宏嵩は拭き終わった皿を静かに置き、あからさまにしゅんとしてしまっていた。成海は水道を止め、宏嵩を覗き込んだ。

「大丈夫?」
「大丈夫。」

周囲からも誰が悪いなどそんな犯人探しすることもなく、みんなで気をつけていこう、ということでまとまって終わった話。別に俺が責められたわけでもない。
なのに、何故こんなにモヤモヤしているのか。

成海を宏嵩はぎゅう、と抱き締めた。成海も宏嵩を抱き締め、背中を摩ってくれた。



同じ職場で良いところはいつでも顔を合わせられること。悪いところはミスした自分を見られてしまうこと。

今回のことは誰のせいでもなく、連携を密にすれば避けられたこと。だから、それに自分も入ってやっていたつもり。でも、詰めが甘かった。次から気をつければいい、ただそれだけ。

何故こんなにモヤモヤしているのか。
つまりは、成海にダサいところを見せてしまったから。

成海の彼氏として、やはり自分としてはカッコ悪いところは見せたくないものだし、俺にもプライドくらいは持ち合わせている。こうやってしょげている俺をどう思ったかは、成海がいつも通りで、今の俺にとって優し過ぎて、正直分からない。だけど、成海が成海なりに俺を励まそうとしてくれたのは充分伝わるし、成海が俺を受け止めてくれたような気がして、優しくてつらい。
畜生、悔しい。でも、成海があたたかくて、こころが軽くなる。

「ありがとう、成海。会えて嬉しかったし、ご飯も美味しかった。俺のためにしてくれたんでしょ?すごく、嬉しいよ。」

宏嵩は抱き締めていた両腕の力を緩め、成海を見下ろした。成海も宏嵩を見上げ、宏嵩の率直な気持ちに少し驚きつつ、にこりと笑う。

「宏嵩が元気になれるなら、それでいいんだよ。わたしができること、してあげたかっただけ。良かった、いつもの宏嵩だ。」

ふわっと笑う成海。この笑顔が最大の俺の癒し。幻滅したかなとかそんなことを頭の隅で考えた自分は馬鹿だ。そんなこと考える余裕があるなら、もうダサいところを見せないようにするまで。

「シャワー入ってきなよ。わたしもその後入るから。」
「…その後、ナニするの?」

宏嵩がわざとそう聞くと、成海はバカ、と小さく言いながら宏嵩へ抱きつき、顔をうずめた。そんな様子につい笑ってしまう宏嵩に、成海はぐりぐりと頭を擦り付けた。

「もう!いいから入ってきて!」
「はい、わかりました。」

宏嵩は口元を押さえながら、成海の頭をくしゃくしゃに撫で、シャワーへと向かった。成海は顔を赤くしながら、くしゃくしゃにされた髪の毛を整え、つい笑ってしまった。

宏嵩の様子が落ち着いて良かった。安堵したのだ。



                                                        • -


成海が風呂から上がると、リビングに宏嵩の姿がない。

宏嵩が来ているし、というか、そのつもりでお泊まり要求をしたから、正直この後の展開は予想通り。宏嵩から誘われてた時点で少なからずナニかすることになるとわかっていたから、実は結構期待していて。だって、やっぱイチャイチャしたいじゃん。
宏嵩の気持ちが晴れなかったら諦めてたけど、どうやらお腹も満たされ、冗談も混じえてくるし、なんだかすっきりしたみたいだから、もうそれは安心したんだよ。
しょんぼりしている宏嵩は久しぶりに見た。(わたしはしょっちゅうミスってるけど)宏嵩が残業するくらいとはなかなか事件、宏嵩が直接原因ではなくとも、宏嵩が気にしていることは離れたデスクからでも目に見えた。
…あとは、たぶん、週末の予定が狂ったことも、しょんぼり要素だったかな。今夜キャンセルにしようとするくらいだったし。
少なからず、わたしと同じ気持ちで仕事をこなしてたんだと思う。週末の楽しいゲームと、わたしとイチャイチャ…なんてちょっと自惚れすぎ?
でも、さっきのナニかしたそうな宏嵩を見る限り、間違ってはないはず。『ナニするの?』って聞いてきた宏嵩、なんか可愛かったな。


成海は様々なことを考えながらベッドへ向かうと、なんと宏嵩は寝息を立てていた。コンビニで買ってきたと言っていた、新しいシャツとパンツを着た宏嵩は、仰向けでしかも眼鏡もしたままですやすやと寝ている。

「えー、ま?」

まさかの寝落ち。そんなに長くお風呂に浸かってないと思うけど。

「…もう。」

成海はなんだか笑えてしまった。ベッドへ腰掛け、宏嵩の眼鏡をそっと外すが、宏嵩は起きそうにない。安心しきったこの表情が愛おしい。

「期待させといて、ずるいぞ宏嵩くん。」

成海はそう言いながら、宏嵩の唇へキスを落とした。そして、髪の毛を撫でる。
明日起きたら、今日の分までたくさん構ってもらおうかな。だから、今日はゆっくり。

「おやすみ、宏嵩。」

成海はもう一度キスをして、さてわたしは宏嵩を抱き枕にして寝ようかなと考えながら部屋の電気を消した。

夜を駆ける

[その欲深さは罪なのか]
こちらのきっかけの話。




━━━━━━━━━━━━━━━





「なると二藤くん、付き合ってる説流れてるわよね。」

久しぶりに花子とサシで飲み。相変わらず酒に弱い花子だが、飲んでああやって収拾つかなくなるのは実は樺倉の前だけだと知っている。テンション上がって、恋バナにいくのは平常運転だけど。

「それ、否定しといてね、花ちゃん!ヲタバレは避けたいから、どうしても付き合ってること知られたくないの。」
「そんなに否定しなくてもいいじゃない。」

成海はビールをぐいっと飲み、んー、と唸る。

付き合ってることイコールヲタバレとは確かにならないかもしれないが、心配要素は小さくても摘み取っておきたいもの。

「…二藤くん、案外狙われてたらどうするの?好物件だもの、女が寄ってこないとは言いきれないでしょ。」
「…そりゃ、そう、かも…だけど。」

眼鏡が壊れたときの宏嵩は、物珍しさもあっただろうが、確かに女の子の視線が刺さっていたのは事実。当の本人は全く気付いていなかったが、無自覚で近づく宏嵩にイラつきを覚えたのも事実。

「…でも、職場で付き合ってることバレると、いろいろ面倒っていうか…。」

前の会社のとき、元彼との間のことが未だにしこりとして残っている。
宏嵩と別れるとかなんて、毛頭に考えてはないけれど…何かあって気まづくなって、周りに迷惑を掛けたくないのもある。…でも、まずはヲタバレだけは避けたいのが一番の本音。

「なるってさ、好きなこと我慢したくないって言う割に、そこは表に出さないのね。」
「そ、そうかな?自分だとそんなこと思ったことないけど…。」
「二藤くんのこと、我慢してるでしょ?」

宏嵩が友達を作ることが自分の中では何より嬉しかった。周りのことに興味を示さず、そこは昔から変わってなくて、同じ会社・部署になってから見ていたけれど、それはやっぱりブレてなかった。
そんな宏嵩が周りと関わることを否定しなくなったことは、嬉しい。

それは、幼なじみを超えた彼女としても。

「…花ちゃんは樺倉先輩に我慢してないの?」
「付き合ってからそれなりに時間も経って…なんて言うの?こう、気持ちが大きくなってこない?めちゃくちゃ側に居たいし、一緒に居たいって募った時期があってね。」

まあ、今もだけど、と小さく付け加える。

「でも、それを見せるのが…プライドだったのかな?デレデレしてる自分のこと見せたくなかったって言うか…ウザイって思われたくなくて、セーブしたときがあったのよ。」

花子はビールを少し飲み、頬杖をつきながらどこか遠くを見ていた。

「そしたらさ、樺倉が逆に怒っちゃって…。勝手に俺の気持ち決めつけるな、我慢される方がきつい、って。」

花子のツンデレっぷりは成海もわかっていたし、それに対して樺倉がそう言ってくることも想像できた。結局、想い合ってた、ただそれだけのこと。

「それからはもう隠すのやめたのよ。会いたいときは会いたいって言うし、急に押しかけてみたり…。最初のうちはこれでいいのかなって…やっぱり引っかかってたけど、樺倉って…ほら、許してくれるから。」

花子は少し微笑みながらビールを飲む。そんな表情に、つい成海もつられてしまった。

「我慢したくないのはわたしも同じ。今じゃ、樺倉がアニメ見てても、やっぱりわたしのこと構ってほしくなるから、ちょっかい出したりするわよ。」

そんな花子の様子が目に見えておかしくなる。きっと樺倉の反応もわかりやすい。文句を言いながらも、花子を受け入れてる。

成海は一気にビールを飲み干すと、呼び鈴を鳴らしてまたビールを追加した。

「成海が我慢できない趣味の話は充分わかってくれてるんでしょ、でもさ、なるを見てると…二藤くんに対して我慢してることあるんじゃないか、って思ったのよ。」

花子が鋭い。返す言葉が見つからず、運ばれてきたビールを半分一気に流し込んだ。胸が熱くなる。

「…宏嵩に対して不満じゃないよ、ただ、わたしが…。」

好きなことを我慢できないしたくないのは昔から。それ自体を宏嵩に咎められたことも飽きられたこともなかった。過去に付き合った人達は、もちろん受け入れるわけもなく、だから、別れたんだ。
楽だから一緒に居るのかな、そうじゃないよ、今のわたしはそう言える。はじまりはそうだったかも…しれなくとも。

「わたし、怖いのかな…宏嵩の優先順位が知りたくないのかも…。」

ゲームとわたし、そんな馬鹿な秤に掛けたいわけじゃない。お互い好きなことをやりながら、同じ空間と時間を共有する。それが今までは充分だった。
だけど、今は、今は…。

「物足りなくなったんじゃない?共有するだけで時間が過ぎるのが…二藤くんに対する欲が出てきたってことじゃない。我慢しなくてもいいと思うけど。」

花子はにんまりしていた。わたしたちふたりの関係をもどかしいと言っていた花子にとっては、成海の欲が嬉しく感じているようだった。

「…花ちゃんってお姉ちゃんみたい。」
「あら、そのつもりだったけど。」

花子の言葉に、成海はつい吹き出してしまった。それにつられ、花子も微笑んだ。

「怖がってちゃ、何も進まないわよ。二藤くんの気持ち、勝手に決めつけてもだめ。好きならぶつけてみることも必要よ。」

宏嵩自体、いつも真っ直ぐだ。突き放すこともなく、受け入れてくれる。それが全て受け身というわけじゃなくて、ちゃんと宏嵩の欲も示してくる。

「というか、普段の二藤くんは正直わかりづらいけどさ、なるのことに対しては二藤くんってわかりやすいわよね。」
「どゆこと?」
「なるのこと一番に気付いてたり、なるとの時間大切にしてるなってすぐわかる。」

テーマパークのときの宏嵩…それは成海へは伝えないが、相当好きで向き合いたくて無理してたんだなと花子は思っていた。そして、宏嵩を見ていると成海のことを大切に思っていることがダダ漏れだと、この間樺倉へ話したばかりだった。…樺倉は気付いていなかったが。

「そういうこと言われると、なんか照れる…。」

普段の宏嵩からはそんなに感じていなかったが、ふたりきりの時間…特にセックスをしているときはそれはもう勿体ないくらいに感じていること。これは花子にさえ、教えたくない。どれだけ宏嵩が愛してくれてるかってこと。甘ったるいあの状況。隠すことなく、真っ直ぐ全身で伝えてくる。大切に想われていると、からだを重ねるたびに嫌ってほど思い知らされるのだ。
それが嬉しいから、わたしも全身で返してる、つもり。

成海はまた一気にビールを流し込み、呼び鈴を鳴らしておかわりを頼んだ。

「ちょっと、飲み過ぎじゃない?」
「だって〜…。」

成海はテーブルへうなだれた。

宏嵩への想いは、日に日に強くなっていくばかりだ。それは宏嵩は気づいているのか、それはわからないが…これは良くない想いの募り方。時間を共有するだけでは満足できなくなってる自分がいるのだ。ゲームを中断してほしい、ゲームよりもわたしを構ってほしい…結局自分勝手。わたしなんて締切前は特に宏嵩を待たせっぱなしなのに。
花子は我慢しなくていいというが、これを宏嵩へ伝えたときの…宏嵩がもしわたしを拒否したら。

過去のことが、まとわりつく。

「素直になりなよ、今付き合ってるのは二藤くんでしょ。」

今日の花子は本当に鋭い。そう、今付き合っているのは、宏嵩。過去のことは宏嵩には関係ない。


成海は運ばれてきたビールをごくごくと流し込んだ。その勢いのある飲みっぷりに、花子は圧倒される。成海はとろんとした表情をしながら、頬が赤く染まっていた。自分が久しぶりに酔っていると実感する。



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「かばくらー!泊まるからー!」
「わぁーた!うるせえ!」

成海に感化されたようで、花子もその後おかわりをし、結局へべれけ状態に。成海は樺倉に電話をし、迎えに来てもらった。

「悪いな、桃瀬。」
「いえいえ!今日はわたしが付き合ってもらっちゃったんで!花ちゃんのこと、お願いしますね。」

成海自体もだいぶ飲んだせいで、顔が熱くきっと真っ赤だ。そんな様子の成海を樺倉はあからさまに心配している。

「お前も結構飲んでんだろ?送って行こうか。」
「反対方向なのに、悪いですよー!花ちゃんもそんな状態ですし、早く寝かせてあげてください。」
「でも…。」
「ここから宏嵩ん家の方が近いんで、このまま宏嵩ん家に行きますから大丈夫です!」

成海はにんまり笑って言うので、樺倉はそれに従うことにした。

「じゃあ…なんかあればいつでも連絡してくれていいからな?」
「大丈夫です、ありがとうございます!」

本当に面倒見がいいな、と思いながら、樺倉と花子の後ろ姿を見送った。樺倉へ“宏嵩ん家へ行く”なんて言ったが、ひとつも連絡してないのに、言ったら迷惑だろう。たぶん、というか、絶対ゲームにのめり込んでいる。

ただ、樺倉と花子の様子を見ていたら、無性に宏嵩に会いたくなった。不安が付きまとうせいで、顔を見たいし抱き締めてほしい。
安心したい。安心させて欲しい。



成海は少し足速に歩き出す。一刻も早く、宏嵩に会いたかった。急に押しかけて、迷惑に思われても…それでもいい。

でも、宏嵩の顔を見たら、きっと泣いてしまうかも。

夢で逢えても

不安になる話。

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珍しく目覚まし前に目が覚め、身体を起こすと、自分の頬に涙がつたった。成海にはこの涙に身に覚えがあった、見た夢のせい。

どうして恋愛をしているときって、定期的に不安が襲ってくるのか。過去の恋愛のときにも経験したことだったが、宏嵩と付き合ってからはじめて襲われた不安。だって、宏嵩はわたしを大切にしてくれてて、想ってくれていることを、よく実感させてくれてたから…こんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。

成海は涙を袖で乱暴に拭った。立ち上がり、洗面所の鏡で自分を映すと、赤く充血した瞳と目が合う。なんて酷い顔。

宏嵩が夢に出てきた。幸せな夢ならこんなことにはならない。
成海の瞳にまた涙が溜まり、結局我慢できずに零れ落ちた。そんな自分を見たくなくて、水道を捻り、冷たいままの水でバシャバシャと顔をすすいだ。

出勤時間までまだ時間がある。それまでにどうにか充血して少し腫れた目をどうにかしようと思った。



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成海の様子が朝からおかしくて、気になるせいで仕事に集中できなかった。
元気も気力もない、脱力した感じ。そして、宏嵩のことを真っ直ぐに見ようとしなかった。目がすぐに逸らされる。最初のうちは二次元が原因かとも思ったが、目を合わせてくれないことが引っかかる。何かした覚えがないのだが、宏嵩は自分が何かをしてしまったのだろうかと思っていた。
ただ、社会人として仕事をこなさなければならないので、本当だったら今すぐにでも問い詰めたいところだが、ここはぐっと堪え目の前の仕事を片付ける。成海にもどうにか仕事を定時で終わってもらい、ふたりきりになりたいと思う。

『今日、俺ん家来てね(`・ω・´)キリッ』

拒否権のないメッセージを送ってみたが、昼休憩になっても既読は付けど返信がなかった。しかも、姿を探したがどこにも見当たらず、結局昼休憩終わりギリギリにデスクへ戻ってきた成海に話しかけることもできずに、午後の始業へとなってしまった。

やはり、何かしてしまったのだろうか。返信もなく、話せず、宏嵩は正直お手上げ状態だった。

…待つしかないのかな。

気持ちが沈んでしまう。



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結局メッセージへ返信はなく、定時になった。宏嵩は帰宅の準備を済ませると、周りへ軽く挨拶をしてデスクを離れた。
わざと成海の方へ向かい、後ろ姿を横目で見ながら通り過ぎる。成海はまだ仕事があるようだった。こちらを振り向くことなく、キーボードを叩いていた。

宏嵩はひとつ溜息をつき、オフィスを後にした。



バスを待っていると、ピロンとメッセージを受信した。慌ててスマホを開くと、やっと待ち望んでいた成海からの返信だった。

『ごめん、今日は帰る(^^;』

よく分からないテンションの顔文字が付いた返信の内容に大きく溜息をついて、返信もせずにスマホをしまった。
返信が来ても、状況を変えることができない。もどかしさや悲しさがどっと込み上げてくる。妙な感情、悔しいというべきか。

今日はゲームに逃げてしまおう。宏嵩はそう思いながら、到着したバスへ乗り込んだ。



                                                        • -


シャワーから出てくると、スマホがメッセージを受信していた。宏嵩がメッセージを開くと、それは成海からで、しかも『ごめん、やっぱり来た』と一言。
宏嵩は慌てて玄関の鍵を解除し扉を開けると、壁にもたれかかりながら小さくしゃがみこんでいる成海がいた。うずくまっていて、顔が見えない。

「成海!」

宏嵩は成海の腕を掴んで引き上げた。成海は無理矢理立ち上がらせられ、反射的に顔も上げる。
涙をいっぱい溜めた成海。

「…ごめん…。」

成海は一言小さく言うと、ひとつ涙が零れた。
そんな成海をぐいっと乱暴に引き寄せ、玄関へ入れた。パタンと扉が閉まると同時に、宏嵩は強く成海を抱き締めた。
成海は宏嵩の胸にグリグリと顔をうずめた。



                                                        • -

涙がようやく止まった成海へあたたかいコーヒーを淹れ、成海の前に置いた。

「落ち着いた?」

宏嵩が聞くと、こくりと縦に首を動かし、コーヒーを一口飲んだ。宏嵩も成海のとなりへ座る。
何から話そうか、考えたが成海を待つことにした。

「…宏嵩、誰か知らない女の人と腕組んで歩いてたの…。」

ポツリと成海が言ったことに、宏嵩の脳内でハテナが飛び交う。全く脈絡のない話。ひとつも身に覚えもないし、今何を言いたいんだ?

「今朝見た夢。」

夢。なんだ、夢か。全く身に覚えのないことだから、どうすればいいのかと思った。…と言っても、成海の様子がおかしいことには変わりはない。

「夢のせいで、今日朝から調子悪かったの?」
「夢だって割り切って出勤した。だけど…宏嵩の顔見たら…思い出しちゃって…。」

成海はマグカップを掴む手に力が入った。



夢だよ、夢。誰か知らない女の人と、仲良く腕なんか組んじゃって。わたしのことなんて、ひとつも見てくれなかった。わたしに背を向けてどんどん離れて行ってしまった。
夢だから、リアルでそんなことあるわけない。だって、宏嵩だよ?

…でも、言いきれない。もし、わたしに愛想つかしてどこかに行ってしまったら?リアルでだって、起きないとは限らないじゃない。

わたしの趣味だけじゃなくて、わたし自身が嫌になったらどうしよう。
そう思ったら、もうループだった。わたしがわたしを否定し続ける。宏嵩はわたしを置いて行ってしまうんだって。

愛されていることを実感しているよ、でも、それは明日になったら変わってしまう?そういうことだってありうるの、それが急に怖くなってしまって、宏嵩の顔が見れなかった。

定期的に起きる、わたしの悪い癖。夢がきっかけだった。こんなに堕ちてしまった。



「俺、不安にさせるようなことしちゃってた?」

宏嵩の一言に、成海はバッと顔を上げ、ふるふると首を横に振った。涙が頬をつたう。


宏嵩は自身ではそれはもう全身で成海が好きだと表現しているつもりだった。隠しても隠しきれない、成海への想い。正直重いと感じていないか、不安になることだってある。

できるだけわかりやすく、でも、負担に思われない程度に自重しながら伝えていたつもりだったが…夢ごときで疑われてしまったなんて。



ただ、宏嵩にも身に覚えがある。定期的に起きる不安。成海は俺でいいのだろうか。
泣かせないし、ガッカリさせないと、自分へ戒めるように言ったあの日。それは今でも変わらないし、そうであるように自分なりに努めてはいる。けれど、成海はそんな俺に不満はない?俺なんか、底辺の俺なんか、結局だめだと…そう言われたら…。

「わたし、怖くなっちゃって…!わたしの気持ちが宏嵩にとって…重くなっちゃったら…。」

受け止めきれなくなって、飽きられちゃったら。 そのときは夢のように誰かわたしじゃない人とすすんでいくの?
嫌だ、嫌だ。そんなの嫌だよ、宏嵩はわたしといてほしいよ。一緒にいてよ。溢れてしまう、止まらない。

「重くないよ。ひとつも思ったことない、大丈夫、安心してよ。」

宏嵩は成海の持っていたマグカップをテーブルへ置くと、両手で成海の両手を包み込んだ。

「俺はどこにも行かない、俺が一緒にいたいのは成海だから。成海が俺にどっかに行けって言わない限り、俺は変わらず一緒にいるよ。」

成海の涙がぽたぽたと宏嵩の両手に落ちてくる。

「一緒にいて。」
「うん。」
「どこにも行かないで。」
「成海を置いて行かないよ。」

俺の想いの丈を思い知ったらいいのに。そんな簡単に、易々と離れるつもりは毛頭にないよ。

「成海も俺を置いて行かないでよ。」

過去に一度離れた時、置いて行かれた気分になった。自分から離れたようなもんなのに、なんて自分勝手なんだ。でも、今また交わってる。今度は絶対離さない、この両手に伝わる熱は俺だけのもの。

「置いて行かないよ。わたし、宏嵩にいてほしいの。」
「大丈夫、傍に居るよ。」

成海はまたひとつ涙を流すと、宏嵩の胸にもたれかかった。宏嵩の両手は成海の背中へ周り、ぎゅう、と強く抱き締める。

「…ごめんね…わたし、めんどくさいね…。」
「そんなこと思ってないよ。」
「宏嵩がわたしのこと好きなの、充分わかってるの…。」
「でも、不安になったの?」
「夢のせいにしていたい。」

成海は宏嵩の背中へ両腕を回した。ぎゅう、と力をめいいっぱい込める。

「成海。」

名前を呼ばれ、成海は少し顔を上げ、宏嵩と見つめ合った。

「宏嵩、ごめんね…。」
「もう謝らないで。謝るようなことじゃないよ。」
「でも…。」

疑ってしまったんだ。少なからず宏嵩は気にしてしまう。

「じゃあ、成海の俺への気持ち、言葉にしてよ。それで俺は満足。」
「好き。」

被せるように成海は食い気味に言った。そして、唇を押し付けた。

「宏嵩、好き。」
「うん。」

宏嵩は成海の後頭部を引き寄せ、唇を押し付けた。

「明日には、いつも通りになるから。」
「そうしてくれると嬉しいな。」

少し離れると成海がそう言ったので、宏嵩は落としたように控えめに笑った。成海もつられ、口元が少し緩む。


もう一度キスをする。少し離して、今度は深く。何度も繰り返して、お互いの肌から、全身から、こころが伝わればいいと思った。

その欲にまみれていたい

[その欲深さは罪なのか]の続きです。
R18なので、ワンクッション。


━━━━━━━━━━━━━━━







何度もキスをしては離れて、またする。この甘ったるい状況は、ふたりがしたいと思っているから。想いが同じだと思ったら、自然とお互いを求めてしまう。

「成海、水飲む?」

結局飲むタイミングを失って、ぬるくなってしまったミネラルウォーター。

「…飲む、飲ませて。」

今日の成海はいつもの倍ほど素直で甘ったれ。もうとうに酒の酔いは覚めてるだろうに、それでもベタベタなところが可愛く思える。

宏嵩はミネラルウォーターを一口含むと、成海へ口移した。ごくりと喉を通る少しぬるい水だが、さっきから喉が乾いていたので美味しく感じる。
キスは酒の味がする。

「もっと。」

再度ねだる成海に、宏嵩は先程より多めに含み、口移す。飲み切れなかった少しの水が成海の喉元につたった。
そして、そのまま舌を絡め合い、宏嵩は成海をベッドへ押し倒す。

「シャワー…入りたかった。」
「もう無理、我慢できない。」
「…わたしも。」

宏嵩は成海のワイシャツのボタンを外しはじめる。成海は自分のスカートとストッキングを脱ぎ、ベッドの下へほおり投げた。下着姿になった成海は、宏嵩のシャツをたくしあげ、脱ぐように促した。宏嵩はシャツとズボンを脱ぎ捨て、下着のみで成海に覆いかぶさる。

「ん…、ふ、ぅん…。」

宏嵩の舌がまた絡まり、成海もそれにこたえる。徐々に荒くなる吐息と共に、成海の声も漏れた。

「は、あ…!」

唇から離れた宏嵩の舌が成海の首筋を這う。ざらりとした感触に、成海の身体がぞくぞくとしてしまい、声もより漏れた。

「成海。」

耳元で呼ぶ。そして、甘噛み。ビクッと反応する成海は、両腕を宏嵩の背中へ回した。

「宏嵩…。」

目が合うと深くキスをした。少し離して、啄んで。また舌を絡め合うと名残惜しそうな唾液が糸を引いて落ちた。

宏嵩の舌は徐々に下へ這わせながら、ごく自然に成海のブラジャーを取り外した。あらわになった控えめな膨らみを両手で揉みしだきながら、舌は肌を這う。その刺激に耐えられず、成海はビクビクとしながら甘く喘いだ。

「あ、あん…!は、あん…!」

宏嵩の舌は膨らみの頂点をぺろりと舐めながら、右手でもう片方の頂点を摘んだ。可愛らしい反応が見たくて、宏嵩はわざとらしく音を立てながら頂点を強く吸った。

「固くなってるよ。」
「そ、そこばっかり…やだあ!」

コリコリと頂点を摘んでは、舌でチロチロと舐める。成海は腰を浮かせて喘ぐ。宏嵩のものは熱く、固くなる。

「こっちも触ってほしいの?」

宏嵩はパンティの上から秘所へ触れた。充分にしっとり、いや、ぐっしょりと濡れていることがわかる。指を擦るとビクッと反応する。

「上からじゃ…やだ…!」

いつにも増して自分が恥ずかしいことを言っているとわかってた。酔いなんて、きっともう覚めてるのに、それでも言えるのはどこか酔いのせいにしているから。宏嵩も気付いてる、でも、やめて欲しくなくて、もっと触って欲しくて、もっと欲に忠実になりたい。

「あっ、あん!」

宏嵩はするりと脱がし、下に置いた。そして、中指を割れ目に添わせ、上下に這わせる。大量の蜜のおかげで、滑りやすい。

「や、あっ!あぁ、ん!」

花弁を掻き分け、ぷっくりと膨れた突起に中指が触れる。成海はシーツを両手で掴んで、足をつい閉じようとしてしまうが、宏嵩の左手がそれを許さない。

「ここ、好き?」
「あん!あっ、あぁ!」

突起を指の腹で転がしながら、わざと聞く。成海が涙を浮かべながら喘ぐ姿で、充分わかっているが、反応が見たくなる。

「気持ちイイ?」
「あ、やぁ!…それ、好き!気持ちイイ、の!」

宏嵩はぞくぞくとしてしまった。こたえてくれるとは思ってなかった。だけど、そのわかっていたこたえに満足する。

「これは?」
「んあぁっ!」

ズブズブと中指が挿いった。たっぷりの蜜で中指から熱さが伝わる。きゅう、と締め付ける成海のナカ。ゆっくりと抜き差ししていくと、そのたびに甘い声が漏れ、グチョグチョといやらしい粘着音が響く。充分ほぐれているので、宏嵩はもう1本指を増やした。

「あ、あん、やあ…あ、ん!」

成海はとろんとした表情で宏嵩の与えてくる刺激に酔っていた。そんな成海へ宏嵩は覆いかぶさり、指を抜き差ししながらキスをする。啄んで、舌を絡め、また啄む。
そのまままた肌へ舌を這わせ、するすると舌は下へおりていく。

「あっ、あん!」

途中膨らみの頂点に吸い付くと、成海の身体がびくりと震えた。舌でチロチロと舐め、また頂点を強く吸う。宏嵩の2本の指が抜き差しされるたびに、蜜がつたってシーツへ染み込んでいた。

「ーーーっあ!」

宏嵩の舌は成海の敏感になっている秘所の突起を舐めた。ビクンっと大きく腰が浮いてしまう。

「や、あっ!あぁん!あぁぁっ!」

突起を舐め、ちゅうっと吸い付き、その間も指が抜き差しされている。成海はこの上ない刺激に我慢できず涙が零れた。シーツを両手で力いっぱい掴みながら、声も我慢できない。
宏嵩の指が成海の奥のある箇所に触れると、きゅう、とナカがより締め付けた。

「ここ、いいんだね、絶頂っていいよ。」
「絶頂く、絶頂っちゃ、う!」

宏嵩の甘くしつこい刺激のせいで、もはや限界。指を抜き差しされながら、宏嵩の舌が突起を舐め、一番敏感な奥に指が当たってる。もうどうにでもなってしまいたかった。

「〜〜〜あぁっ!」

宏嵩が突起をちゅうっと吸い付き、成海の奥に指を当てると、成海はビクンっと大きく反応し、腰を浮かせながら果てた。

「はあ…はあ…。」

成海はシーツを離し、ボーッとしながら天井を見つめた。荒い呼吸を整えていると、宏嵩が覗き込んできた。

「大丈夫?」
「大丈夫…じゃ、ない。」

そうこたえたが、宏嵩は満足そうに口元が緩んでいた。

「ほら、すごいよ。」

宏嵩は成海の蜜がべっとりついた指を見せつけてきた。その瞬間、かぁーっと顔が熱くなる。

「ば、ばかあ!」
「なんだよ。」

落としたように笑う宏嵩。機嫌が良い証拠、でも、ホントSだ。自覚してないのが悔しい。

「俺、もう限界。」

宏嵩は自身の反り勃ったものに装着すると、成海を起こし、向かい合う。

「おいで。」

宏嵩は座位をしたがる節がある。成海もこれが結構好きで、甘ったるい濃厚なキスをしながら、からだをピッタリ密着させて、抱き締め合いながら求め合える。

「ちょっとゆっくり、ね?」

先程の刺激の余韻で、少しゆっくり味わいたくてねだった。そして、またがると、宏嵩が自身を秘所へあてがう。そして、ズブズブと挿いった。

「ーーーんっ!」

宏嵩のモノが根元まで挿いってしまうと、びくびくとからだを震わせながら成海は声にならない声を漏らす。ナカが苦しい。

「…じゃあ、このまま、少し。」

成海の後頭部を引き寄せ、キスをした。すぐに舌が絡まり、成海も舌を絡ませてこたえた。成海の両腕は宏嵩の首へ回し、宏嵩は左手で成海の腰を押さえていた。
成海は挿いっている宏嵩のモノがまた大きくなったことを感じる。

「ふ、う…は、ぁん…。」

舌を絡ませ、呼吸をするために離し、唾液が糸を引いて切れた。

「成海…好きだよ。」

見つめ合うと宏嵩もとろけた表情でそう言った。成海のナカがキュンとしてしまう。

「わたしも…宏嵩、好き。」

成海は宏嵩へ唇を押し付けると、宏嵩も押し付けてきた。そして、そのままベッドへ押し倒された。

「もう、動いていい?限界。」
「うん…わたしも、限界。」

そう言った瞬間、宏嵩は成海の両足を開かせ、ゆっくりと腰を動かし始めた。すると、秘所からねっとりとした粘着音が響き始める。

「ん、あ…あん…。」

我慢できず、成海は声が漏れ出す。宏嵩の呼吸も荒くなっていき、声にならない声も漏れてしまう。
徐々に腰の動きが速くなっていった。

「や、あっ!あぁ、ん!」

腰の動きに合わせて、成海の喘ぎも激しくなっていく。宏嵩は成海の顔の横で両腕を支えながら覆いかぶさり、成海を見下ろす。苦しそうにしながら、涙をいっぱいに溜めている成海が可愛い。

「なるみ…気持ちイイ…!」
「わた、しも…!気持ち、イ!」

欲に忠実になるふたり。グチョグチョと響く粘着音を聞きながら、キスを再開する。啄んでは舌を絡める。

「ひ、ひろ、たかあ!」

止まれない腰の動きが、成海を限界へ向かわせているようで、成海は涙が零れた。そして、ナカがより締め付けられてきた。その刺激のせいで、宏嵩も限界だった。

「な、なるみ…絶頂、く…!」
「わたし、も!絶頂っちゃ…あぁんっ!」

宏嵩は自身のモノを成海の一番奥へ突き付け、そのまま奥へ出すように果てた。同時に成海のナカがきゅう、と締まり、宏嵩と成海の声にならない声が重なった。
宏嵩は重いだろうと思いながらも、繋がったまま成海に覆いかぶさってぎゅう、と抱き締めた。成海も宏嵩の背中へ両腕を回して抱き締め、顔をうずめた。

ふたりの荒くなった息遣いが部屋に響いて、お互いそれを無心で聞いていた。

「成海。」

宏嵩が呼ぶので、成海は顔を少し上げると、額にちゅ、と軽くキスをされた。

「わたし、シャワー…入りたい。」
「一緒に入る?」
「いいよ。」

宏嵩は冗談で聞いたのだが、成海に即答されて驚いた。そんな宏嵩を見て、成海がクスクスと笑う。

「でも、変なこと、しないでよ?」
「…変なことってなに?」

成海の言ってる“変なこと”はわかっていたが、おかしくてつい問いかけた。成海もその反応がわかっていたようで、ニヤニヤしながらまた顔をうずめる。

「宏嵩がしたいこと!」
「成海も、でしょ?」

ぎゅう、と抱き締め、宏嵩は成海の髪に顔を擦り寄せた。成海もより宏嵩を抱き締める力を強めた。

ふたりでしかできないこと。今夜は、いつもよりその欲に素直になってみたい、とふたりが思った。

その欲深さは罪なのか

酔いが本音を言わせる話。
シリアス展開注意です。


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『桃瀬、大丈夫だったか?』

樺倉さんから謎のメッセが届き、宏嵩はハテナになる。送り間違い?何の話をしているかわからないので、電話を掛けてみようと思ったと同時に、インターホンが鳴った。時間は夜の9時を回っていて、こんな夜遅くに来るとすれば尚哉?宏嵩は一旦スマホを置くと、確認もせずにドアを開けた。

「や。」

立っていたのは、なんと成海だった。

「な、成海!?どうしたの!?」

予期せぬ成海の訪問に、宏嵩は驚きを隠せない。しかも、この時間帯。

「急にごめんね。」
「いや、それより、中に入りなよ。」

そう促すと成海は玄関へ入り、宏嵩はドアを閉めた。すると、酒の匂い。
…そういえば、今日は小柳さんと飲みに行く話をしていたな。

「急にごめんね。」

成海はもう一度言うと、玄関の床へ座ってしまった。そして、壁に寄りかかる。宏嵩は成海の隣にしゃがみこんで、頭を撫でた。

「気にしてないから大丈夫。成海こそ大丈夫?具合悪い?」
「花ちゃんと飲んだんだけど、思いのほか飲んじゃって…。」

宏嵩の問いに答えなかったのは、おそらく話を半分聞こえていないからだろう。成海は頬を赤らめていて、なんだかフワフワしている。成海は酒に呑まれることはないが、こうなってるということは本人の言う通り、相当飲んだのだろう。

「花ちゃんはー、樺倉先輩が迎えに来て…先輩、わたしのことも…送ってってくれるってぇ…言ってくれたんだけど、反対方向で悪くてぇ…“宏嵩ん家に行くから大丈夫です〜”って断ったの。」

少し語尾が伸びたり、酒の影響だろうとわかる成海の話し方。一体どれほど飲んだのだろう、というか、成海がこんなに飲むことも珍しいが。

そして、ようやく合致した樺倉さんからのメッセ。成海がそう言ったもんだが、いつもより飲んでることを察してくれた樺倉さんなりの確認メッセだったようだ。あとでちゃんとお礼を言わないと。

「成海、ホントに大丈夫?」

あまりにもふにゃふにゃしている成海が心配で、宏嵩は顔を覗き込みながら聞いた。ようやく成海と目が合うと、成海はこれまたふにゃっと笑って抱きついてきた。

「具合悪い?吐く?」
「大丈夫。」

突然のハグに驚いたが、これはもうただの酔っ払い。いちいち驚いていても仕方がないと思った。

「あっち行こうよ、立てる?」
「立てる…。」

成海は身体を離すと、あっ、と小さく声を発した。

「なに?」
「…やっぱ、立てない。」

一転変わって、成海は上目遣いをしながらそう言った。酔っているせいか、瞳がうるうるとしている。

「宏嵩、抱っこして?」

成海は両手を宏嵩に差し伸べ、顔を傾げながらねだってきた。その様子が酒の影響とはいえ、宏嵩には充分過ぎるほど可愛くて仕方がなかった。

「いいよ。」

宏嵩は成海を抱きかかえて立ち上がった。所謂、お姫様抱っこ。お互いはじめての経験になった。
運動が出来なく体力がないと自信を持って言えるが、成海くらいなら軽々と持ち上げることができた。

成海はきっとこのまま寝てしまうだろうと思い、宏嵩は寝室へと向かった。

(この様子、写真撮りたい。)

自慢する相手こそいないが、この様子に少しうきうきとしてしまう宏嵩。成海はどんな様子?と視線を落としてみると、にこにことしながら宏嵩にすり寄っていた。

「どうしたの?」
「んー、なんか、嬉しくて。」

宏嵩は成海をベッドへ下ろす。腰掛けた成海へ宏嵩は冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを持ってきた。

「はい、飲んだらいいよ。」
「ありがと…。」

隣に腰掛けた宏嵩に成海がもたれかかる。表情は見えないが、今日はやたらべったりだ。
付き合いが長くなるにつれ、触れ合う機会ももちろん比例していたが、今日は特別だと思った。宏嵩自身は酒に呑まれたことはないのでどういう感情なのかわからなかったが、成海のより内部がチラチラ見えてるように思えた。

「ホントはあのまま帰ろうと思ったの…。でも、なんか、花ちゃんと樺倉先輩の文句言いながら、嬉しそうにしてる様子見たら…なんか、会いたくなっちゃって…。でも、宏嵩はゲームしてるだろうから、急に行っても…迷惑だろうな…って思ったんだけど…。」

酔いが少し落ち着いてきたのか、先程より滑らかに話す。が、どこか元気がない。

「だけど、ごめん…我慢できなかった…。」

成海は身体を離した。宏嵩は俯いたままの成海を覗き込むと目に涙を溜めていた。

「…どうして泣くの?」
「だって…。」

宏嵩と目が合うと、成海は我慢できず涙を零した。突然の涙の理由が全く分からず、宏嵩はギュッと抱き締めることしかできなかった。成海も宏嵩の背中に両腕を回して、顔をうずめた。

「わたし、好きなことひとつも我慢できないから、正直自分でも諦めてて…我慢したくないし、諦めたくないって思ってて…。」

花ちゃんは我慢しなくていいじゃない、と言ってくれた。わたしもそれはそう思ってる。我慢したくない。それが嗜好だけならそれでもいい。
でも、それだけじゃなくなってる。

「我慢したくないことの中に…もう、宏嵩が入ってて…。」

日に日に増していく宏嵩への想い。こんなに好きになると、正直思ってなかった。幼なじみの延長で、好きなことをお互い好きなようにやっていて、隠さなくてもよくて、それが楽。だけど、それだけじゃなくなってきた。楽だから、最初はそうだった。でも、今はそれだけで傍に居たいと思ってるんじゃないの。それ以上に、宏嵩が好きで、好きで、どんどん欲深くなる。さっきみたいに抱っこしてほしいし、抱き締めてほしいし、キスもしたい。だけど、好きなこともしていたい。しながら、宏嵩と一緒に居たい。
でもさ、それって強欲でしょ?わかってる、わかってるよ。でもさ…。

「宏嵩の時間を奪いたいわけじゃない、けど、もっと近くに居たくて…もっと…傍に…。」

触れていたくなる。あんなに近くでお互い好きなことをしていても、触れたくなってしまう。この感情はなんて言ったらいい?

「我慢しなくていいじゃん、ていうか、我慢しないでよ。我慢される方がつらい。」

宏嵩は抱き締める腕の力を強めた。でも、苦しくないように。

「俺、前にも言ったよね?好きなことしてる成海が好きだって。腐ってても気にしてないし、締切間に合わすために協力だってするし、俺は全力で楽しんでる成海がすごいと思うし、すごく好きだよ。」

成海がいつもどれほど一生懸命なのかは、側で、一番近くで感じているという自負がある。そういう成海が好きだし、それでも、俺に向けてくれる気持ちも増えていってくれてると、それも自負していた。変わらなくていいよ、そのままの成海でいいんだよ。

「…こうやって急に来て、宏嵩の時間…邪魔してるよ?」
「邪魔と思ってないし、むしろもっと来てよ。俺も会いたい。」
「会いたい、って言ったら、来てくれる?」
「すぐに行くよ。」
「…ゲームしてるときに、構って、って言ったら?」
「ゲーム止めて、構い倒してあげよう。」

成海が顔を上げると、宏嵩は落としたように笑っていた。その笑顔を見たらなんだか安心して、つられて笑ってしまった。ようやく表情が和らいだ成海に宏嵩は安堵した。涙が零れたが、宏嵩がキスで舐めとる。

「俺だって、相当欲張ってるんだと思ってるけど。」

日常生活の主はゲームで、最優先事項。それは昔から全くブレず、これからもたぶん変わらない。
ただ、成海が俺の彼女として一緒に居てくれるようになってからは…いや、あのとき再会したときからか、自分の中で少し変わった。ゲームも大切、だけど、成海と一緒の空間を、時間を共有したいと思った。
優先順位に成海を加えるのなら、それはもうダントツで一番。ただ、お互い好きなことはしていたいから、じゃあ、共有したっていいじゃないのか?

「俺と成海がそれでいいって思ってるんだ、誰かに言われたって変えれるものじゃないし、変えなくたっていいよ。俺は成海と一緒にいたいし、成海も俺と一緒にいたいって思ってくれてんでしょ?それでいいんだよ。」

成海の頬に宏嵩の左手が触れる。その手にそっと成海も右手を添えた。

「一緒にいたい。」
「うん、俺も。」
「触っていい?」
「もう触ってんじゃん。」

宏嵩の頬に成海も左手で触れた。

「成海、キスしてよ。」

ねだる宏嵩に、成海は軽く触れるキスをした。そして、そのまま宏嵩に抱きつくと、宏嵩も成海を抱き締める。

「わたしにもキスしてよ。」
「いいよ。」

一度身体を離し、見つめ合う。宏嵩は成海の後頭部に左手を添えてグイッと引き寄せた。唇を押し付け、深くキス。

楽だから選んだことだったかもしれないけれど、それは結局後の理由にしかならない。好きだと思ったから、傍に居たいと、ただその感情が最優先。好きなことはふたり一緒に、これは贅沢な欲。
ふたりそのまま欲にまみれたいと、思った。

こころも裸になってみた

成海が頑張る話。
R18なので、ワンクッション


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暗がりの静かな部屋にはふたりの速い息遣いと、舌を絡めるごとに漏れる粘着音。ベッドに向かい合って座りながら、お互いの舌を絡め、時に一旦離して啄むようなキスに変わったり、そう思えば押し付けてみたり…様々なキスでふたりの吐息は熱くなる。
宏嵩は成海の着ているシャツを脱がせた。そして、ブラジャーも取り外し、ベッドの下へ置いた。宏嵩自身も着ていたシャツを脱ぐと、成海の服の上に重ねて置く。成海の華奢な両肩に手を置き、またキスをした。

「…ひろ、たかぁ…。」

キスの合間の息継ぎ。成海が名前を呼んだので、少し顔を離した。とろんとした成海の表情。そんな成海へまたキスがしたくて、宏嵩が顔を近付けると、

「ちょっと…待って。」

成海が宏嵩の口元を掌で塞いで止めた。

「どうしたの?」

宏嵩は成海の掌を取り、そのままギュッと握った。

「…今日はわたしがする。」
「ん?」
「いつも宏嵩ばっかりだから、今日はわたしがするの!」

モジモジと言ったかと思えば、急に少し怒ったように言った成海。暗い部屋でもわかる、成海は顔を赤くしているようだ。

「宏嵩にやられっぱなしでなんか悔しいから、宏嵩は何もしないで。」

やられっぱなしだというのはよくわからなかったし、それによって何が悔しいのかもよくわからないが、成海がナニをしてくれるのかはとても気になるし、されてみたい。

「…俺はどうすればいいの?」
「何もしないでいいの。」

そう言うと成海は宏嵩の首へ両腕を回し、ギュッと抱き締めてきた。宏嵩も抱き締め返す。

「ーーー…!」

成海の唇が宏嵩の首筋に触れる。熱くて柔らかい感触。そして、耳元に吐息がかかった。

「宏嵩。」

囁かれた名前と共にざらりと耳を舐められ、宏嵩の身体がゾクゾクとつい震えてしまった。

からだを重ねたことはもう何回もあったが、成海からこういうことをされたのははじめてだった。どうしてこうしたくなったのか、成海の気持ちは今のところわからないが、成海がいつも俺にこうされて身体を震わせる理由が少しわかった。からだもこころも、熱くなる。

「成海…。」

耳を舐められ、甘噛みされ、くすぐったい…というか、焦れったいというべきか。我慢できず、宏嵩が成海を呼ぶ。成海は宏嵩の唇に軽くキスをした。

「嫌だった?」
「嫌じゃなくて、なんていうか…。」

触れる度に熱くなる身体と、宏嵩の自身。さっきから妙に興奮しているせいで、正直自身が苦しい。

「ここ、おっきくなってるよ。」
「そりゃあ、ね。」

成海が服の上から自身に触れた。少しびくりとしてしまい、恥ずかしくなる。成海の触れ方が遠慮がちなせいで、余計な刺激となってしまっている。きっと成海はわからない。
…いや、それは成海も同じだったのかな。焦らしているつもりはなかったが、俺自体がそうしているように。

「宏嵩、脱いで?」
「だったら、成海も脱ごうよ。」

成海がいつも先に俺に脱がされる、それが逆になってみて感じたが、こんなにむず痒いとは。どうせなら一緒に裸になってしまいたくなった。

宏嵩は下着と共に脱ぎ、ベッドの下の服へと重ねて置く。成海も恥ずかしそうにしながらも脱ぎ、宏嵩の服の上に重ねて置いた。
意識して脱ぐことでも興奮してしまうなんて。

「ここに座って?」

成海はベッドに腰掛けるように言ったので、宏嵩はそれに従う。成海はベッドから降り、宏嵩の目の前に立って改めて首へ両腕を回し、宏嵩を抱き締めた。宏嵩も成海の腰へ両腕を回す。ちょうど宏嵩の耳元が成海の胸の辺りに当たり、宏嵩の聞く成海の心音が速くてなんだか心地良かった。

「成海、キスしたい。」
「…いいよ。」

成海が両腕を離して見下ろすと、宏嵩と目が合う。宏嵩の頬を両手で包み、そのまま成海はキスを落とした。そして、舌を絡めてきた。

「ん、ふぅ…ぅ、ん…。」

宏嵩も舌を絡めこたえると、ふたりの吐息に混じって成海の声も漏れた。宏嵩の両手は成海の腰や尻辺りを撫でるように這う。びくりと身体を反応させた成海は、ダメ、と小さく言って唇を離した。

「わたしがするの。」

どうしてもそこは譲らないらしい。触れたいのに触れられないのは、正直拷問。

「まだダメなの?」
「まだまだ。」

成海はそう言いながら、腰を下ろし膝を付いた。そして、宏嵩の固く反り勃ったものに顔を近づけた。

「痛かったら言ってね。」

そう言うと成海は右手でものを包んだ。その瞬間、少し宏嵩の吐息が漏れ、熱くなったものもより固くなった。

(…固い…。)

宏嵩のものはとても固くなっていて、そして熱い。こんな近くで、まじまじと見たのはこれがはじめて。
宏嵩はわたしのことをたくさん(遠慮なく結構何度も)絶頂かせてくれるけど、ものを触ってほしいとかそういうことは言ってきたことはなかった。別に過去の人と宏嵩を比べるわけではないが、わたしもするのが当たり前だと思ってた。してほしい、と言われて、していた過去。
でも、宏嵩と付き合ってからというもの、誰しもそういうわけではなかったんだと知ったし、というか、宏嵩にとても大切にされてるんだとより思い知った。
無自覚ドSな宏嵩を興奮させてみたい、という衝動ももちろんあったが、それよりもわたしも宏嵩を喜ばせてあげたいと思ったのだ。

「…痛くない?」
「…大丈夫…続けて…。」

成海は固くなったものを右手で上下にしごいてみる。何回かしていくうちに、宏嵩の息遣いが速くなったのを感じた。なんだか恥ずかしくて宏嵩の表情が見れず、じっとものを凝視する。すると、先端から透明な液が少してらてらとしていた。それを左人差し指で触ってみると、糸を引いた。

成海は右手を動かしながら、宏嵩がベッドのシーツを両手でギュッと握っていることに気が付く。

(宏嵩、気持ちイイんだ。)

そう思うと、触られてもいないのに、成海のナカもなんだか熱くなる。
そして、成海は歯が当たらないように宏嵩のものを舌で舐めた。ちょうど先端へ舌が当たり、透明な液が舌へ付く。宏嵩は我慢しているのか、声にならない声が漏れた。チロチロと成海は舌でものを舐め続ける。

(…いつもより、興奮してるな…。)

つたない指先が触れたのをきっかけに、妙に敏感になってしまっていて、成海が与えてくる刺激がより刺激となっていた。興奮していた。声なんて出せないから、必死に我慢している。

(成海…恥ずかしがってんのかな…?)

宏嵩が成海を見ていても、成海は顔を上げようとしない。成海のことを弄っているときでも、自分の顔を隠そうとする(隠させないようにしているが)から、きっと今も同じような気持ちなのかも。でも、まじまじと凝視されるのも正直恥ずかしいし、その舌で舐める表情は反則だ。目が合おうが合わないが、どちらにしてもこのアングルはやばい。

「ーーーっ!」

成海は口を大きく開け、宏嵩のものを咥えた。宏嵩はシーツを握る力を強めた。

(お、おおきくて…奥まで…。)

入らない、というか苦しくて奥まで咥えられない。成海の目に涙が滲む。それでも、咥えられるところまで…成海は歯を当てないように咥えながら上下に動かした。宏嵩からは荒くなった息遣いと共に我慢しているような声が漏れ出す。
成海はどうしても宏嵩の表情が気になり、咥えたまま宏嵩を見上げると、バチッと宏嵩と目が合った。宏嵩の表情は少し歪んでいて、虚ろな目でわたしを見下ろす。その表情にぞくりとからだとナカが熱くなる。気持ちイイ、と表情でわかる。

(これ、やばい…。)

成海にどう映ってるかわからないが、たぶん、俺の表情はだいぶ恥ずかしいことになっているはず。だって、もう気持ちイイし、だからといってその刺激に素直になると、もうすぐにでも果ててしまいそうになっている。もう少しこの刺激を味わっていたい。成海の辛そうに咥えているこの表情をまだもう少し見ていたい。
俺ってこんなやつだったっけ?そうさせてるのは、成海だ。

「…ん…ふ、ぅ…んんっ…。」

咥えながら上下に動かす口。そのたびにどうしても声と吐息が漏れる。熱くて固いものの先端から漏れ出ている少量の液が、口の中に広がっている。

「…なるみ…。」

深い吐息と共に名前を呼ばれ、宏嵩の掌が頬に触れた。成海は一度離れる。

「宏嵩、気持ちイイ?」
「うん…すげー気持ちイイ。」

少し口元が緩んだ宏嵩の表情に、成海は嬉しくなってしまった。同時に成海のナカがとても熱くなる。わたし、すごく濡れてる。宏嵩に触ってもらいたい、でも、まだ我慢…。わたしがしてあげたい。

「ん…。」

成海がもう一度咥えると、宏嵩の声が少し漏れた。大きくて正直辛いけれど、成海は咥えながら上下に動かした。

「成海、ちょ、待って…もう…!」

宏嵩の我慢はもう限界だった。そう言ったが、成海は離そうとせず、上下に動かすのを止めない。これ以上そのまま刺激されると、成海の口の中に…。

「な、るみ!で、出…!」

成海の頭を両手でガシッと掴み引き離そうしたが、成海がそれを拒み、より奥へ咥えた。

「~~~っ!」
「ーーーっん!」

宏嵩は引き離せず、そのまま熱いモノを成海の喉奥へ出してしまった。成海は苦しくて、目から涙を零す。そして、ごくんと飲み込んだ。

「はあ…はあ…。」

大きく深呼吸しながら成海の髪を撫でると、ようやく成海が離れた。

「…え、飲んだの?」

うるうるとした瞳のまま、成海はこくりと頷く。口の中、というよりも、喉奥になんとも言えない味が広がっていた。

「出していいのに。」
「…だって。」

あんな奥に出されてしまったら、吐き出す方が難しい。そうさせたのは成海自身だったが。
宏嵩がとても気持ち良くなってくれていたから、苦しくても続けてあげたかった。続けた結果がちゃんと絶頂ってくれたのなら、嬉しいと素直に思える。

「ありがと、成海。」
「気持ち良かった?」
「すごく。」

宏嵩は成海の髪を撫でながら、落としたように控えめに笑った。その表情を見て、成海も口元が緩む。

[newpage]


「次は俺がしてもいいよな?」

宏嵩は成海の両腕を引っ張り、立ち上がらせた。

「もう俺、我慢できないよ。」

そして、左手で後頭部へやり、グイッと引き寄せ成海へ唇を押し付けた。そのまま成海の首筋に舌を這わせる。宏嵩の右手は成海の控えめな膨らみを揉みしだいた。

「あ、ん!」

さっきから疼いていたからだが、急に熱を帯びる。身体中がびくびくとしてしまい、声も我慢できない。

「ここ、もう固くなってる。」

宏嵩の左腕が腰へ回され、汗ばんだ身体同士がぴったりくっつく。右手で頂点をこりこり摘んだり、引っ張るたびに成海は大きく反応した。

「あ、あっ!やぁっ!」

宏嵩はちょうど視線にある成海の膨らみの頂点を口に含んだ。ちゅっと吸い、時に啄む。
成海は身体を支えるのがやっとのようで、宏嵩の両肩に手を置き、もたれかかった。表情は見えないが、とても良い反応。

「あぁっ!」

宏嵩の右手がするりと秘所へ移動し触れた瞬間、成海はビクッと震えた。そこはぐっしょりと濡れていた。

「成海、すごい濡れてる。」
「だ、だって…!」

自分でしたいからと言って我慢していた成海だったが、あの行為自体自身のからだを熱くするには充分だった。実は自分でまさぐってしまいそうになっていた。けれど、成海は宏嵩にして欲しかった、これは正直な衝動。

花弁を掻き分けて割れ目を添いながらぷっくりと膨れた突起に中指が触れる。ぬるぬると蜜が溢れ出ていたので、滑りやすい。突起を指の腹で撫で、そして押す。それを繰り返す。

「や、あっ!んあっ!」

ガクガクとからだが震える、こんなに速く限界が来てしまいそうだなんて。

「ひろ、た…もう、絶頂っ…!」
「いいよ、絶頂って。」

そう言った宏嵩は中指で突起を押しながら速く摩ると、成海はガシッとしがみつき、宏嵩の耳元で声にならない声を漏らしながら果てた。
乱れた呼吸を整えながら、成海はボーッと余韻に浸っていたが、自分がまさかこんなに早く果ててしまうなんて思ってもみなかった。

「成海、もう1回。」
「ーーー!」

宏嵩はまだ余韻が残るナカへ指をズブズブと挿れてきた。秘所からの蜜が大量に溢れ出ていたので、簡単に2本の指が挿いった。
成海のナカが、宏嵩の指をきゅうっと締め付ける。

「〜〜〜っやあぁっ!」

絶頂ったばかりのナカにはこの上ない刺激で、成海は涙が零れてしまった。宏嵩が指を抜き差しするたびに、グチュグチュといやらしい粘着音が響く。

「成海、気持ちイイ?」

成海の腰は指が抜き差しされるたびに動いてしまう。宏嵩が聞いた途端に、またナカが指を締め付けてきた。成海は喘ぐので精一杯のようでこたえてはくれなかったが、その反応で充分わかった。

「あ、あんっ!ん…あっ!」

成海は宏嵩の与える刺激にクラクラと酔ってしまった感覚になる。声を我慢することができず、身体に力が入らず、宏嵩にもたれかかりながら必死に立っていた。

「や、やあっ!ひ、ろた…か!ま、また…!」
「ここがいいんだ?」
「だめ、あっ!絶頂っちゃ、う!」
「いいよ。」

そう言った宏嵩は、成海の一番敏感で弱いところに触れ続けた。

「ーーーや、あ、あぁんっ!!」

びくびくと大きくからだが震え、ナカがきゅうっと宏嵩の指を締め付けて果てた。成海の溢れ出た蜜が宏嵩の手をつたい、自身の太ももにつたう。すっと宏嵩の指が抜かれたが、それも刺激となったので小さく声が漏れた。
成海は立っていられず、宏嵩に身体を預けてしまったが、宏嵩は優しく成海を抱き締めベッドへ寝かせる。

「はあ…はあ…。」

成海は再度呼吸をゆっくり整える。自分の秘所から蜜が溢れていることがわかるくらい、熱くなっている身体。
宏嵩はゴソゴソとものを取り出すと、自身の反り勃ったものに装着した。

「成海、大丈夫?」

すっと成海の頬を宏嵩は触れながら聞いてみた。とろんとした表情の成海は、ゆっくりと上体を起こし、大丈夫と小さくこたえた。

「宏嵩…横になって?」

今度は成海が宏嵩の頬に触れながら言った。

「わたしがするの。」

成海がしたかった当初の目的、それがまだ続くことに宏嵩は驚いたが、成海の言う通りベッドに横たわることにした。そして、成海は宏嵩にまたがった。

「宏嵩は動いちゃだめだからね。」

そう言いながら、成海は腰を宏嵩のものに下ろす。
が、なかなか入らず、その代わり宏嵩のものが成海の割れ目をぬるぬると滑ってしまい、思わず声が出てしまった。思いもよらなかった刺激が成海を興奮させた。

(このアングル、やばい…。)

先程、成海が自身を咥えたときにも思ったが、宏嵩にまたがって必死になっている成海もとても興奮した。でも、実はさっきから早く成海に挿れてしまいたくて仕方がなかった。

「挿れてあげるよ。」

宏嵩は自身のものの根元を持つと、成海の穴へとあてがった。

「ーーーあんっ!」

宏嵩が手伝ってくれたおかげで、無事にナカへズブズブと一気に根元まで入ってしまった。宏嵩もぎゅうっと締め付ける成海の刺激に、つい吐息が漏れてしまう。
宏嵩は成海の腰を両手で支えると、宏嵩の両腕に成海も両手を置き、自身の身体を支えた。

「…動いていい?」
「だ、だめ…わたしが…するの。」

成海は目を涙でいっぱいにしながら、腰を上下に振り始めた。腰の動きに合わせて、グチュ、グチュ、と粘着音が響き、成海の声も連動して喘ぐ。

(気持ちイイ、やばいな…。)

与えられてる刺激だけじゃなく、成海の表情や声、そして、腰の動きに自身を咥え込んでいる姿まで、全て刺激となって宏嵩にくる。成海が俺のために必死になっている、それが最高に嬉しいし、何より可愛くて仕方がなかった。

「あっ、あん、ぁっん!」

成海自身も自分でしていることが恥ずかしくて、でも気持ち良くて止まれなかった。宏嵩のより大きくなったものは、奥の敏感なところに当たってしまう。このままじゃまた先に果ててしまいそう。

「ひろ、たかあ…。」

成海は一度止まり、宏嵩にしがみつきながら耳元で囁いた。そして、耳を甘噛みすると、宏嵩はびくりと反応した。

「な、成海…!」
「不意打ちだった?」

顔を上げて宏嵩に笑いながら言う成海。そんな成海が可愛くて少し憎たらしくて、右手でグイッと頭を引き寄せ、乱暴に唇を塞いだ。激しく舌を絡めると、成海も吐息を漏らしながら舌を絡める。繋がったままの秘所とものがより熱くなった。

荒い息遣いが重なり、舌を離すと、唾液が糸を引いて途切れた。

「成海、もっとしてよ。」

宏嵩がそうねだると、成海は上体を起こし、両手を宏嵩の腹に置いて身体を支えた。そして、ゆっくりとまた腰を振り始める。

「あんっ、あ、ん!」

成海は喘ぎながら、必死に動く。宏嵩は両手で胸の膨らみを揉みしだきはじめた。

「ひ、宏、嵩あ…わたしが…するのに…!」
「俺だって、やっぱりしたいから。」

そう言いながら膨らみの頂点を指で摘んだり、転がしてみると、成海は大きく反応し、ナカがきゅうっと締め付けてきた。

「やあ、ん!」
「…ん!」

宏嵩も我慢の限界が近くなっていたので、左手で成海の腰を支え、右手親指で割れ目に隠れていた突起をまさぐり探し当てた。触れた瞬間、成海はびくりと反応した。

「ひ、ひろ、たか!それ…だ、だめえ!」
「気持ちイイ?」
「あ、あん!は、あん!あ、あっ!き、気持ちイ…!」
「俺も…気持ちイイ!」

宏嵩の親指が突起を押された刺激と、自身が動くたびにナカに当たる刺激で、成海はもう限界だった。宏嵩も成海のナカが締め付ける刺激で限界だ。

「絶頂く、絶頂っちゃ、う!」
「絶頂って、いいよ…俺も…もう!」

宏嵩は右手を離し腰をガシッと掴むと、一気に奥を突いた。その瞬間、成海は涙を零しながら、声にならない声をあげた。びくびくと身体を大きく震わせ、ナカがぎゅうっと強く締まった。
その締まりと共に、宏嵩も成海の奥へ吐き出すように果てた。

「はあ…はあ…。」

荒い息遣いが重なる。
成海はくてっと身体の力が抜け、そのまま宏嵩へ倒れ込んでしまった。そんな成海をぎゅっと抱き締めた。

「…わたしがするって、言ったのに…。」
「まだ言ってんの?」

小さく呟いた成海に、宏嵩は少し笑ってしまった。そんな宏嵩が気に入らなかったのか、成海は顔を上げて少し頬を膨らませる。
そう言った表情も成海は可愛い。でも、ついさっきの成海の乱れようを思い出す。一生懸命になって咥えてくれてた表情とか、必死で腰を振る姿は正直格別だった。

「またしてくれる?」
「して欲しいくらい、気持ち良かったの?」
「うん、かなり。」

宏嵩が正直な気持ちを伝えると、成海はにっこりと満足そうに笑った。

「成海も気持ち良かった?」
「…言わなきゃだめ?」
「言わなきゃだめ。」

宏嵩が落としたように笑う。意地悪だな、と思ったけれど、つられて笑ってしまった。

「あのね、気持ち良かった、すごく。」

成海がそう言った瞬間、ナカで繋がったまま挿いっていた宏嵩のものがむくむくと大きくなったことを感じた。

「ひ、宏嵩。」
「そう言うこと言った成海が悪い。」

グイッと頭を引き寄せ、成海へキスをした。

「ちょ、ちょった休憩…!」
「今度は俺がするから。」
「ま、待って!」
「待てない。」

宏嵩は成海を反対に押し倒した。そして、もう一度キスをした。

「俺がしていい?」
「…いいよ。」

いいよ、と言ったけれど、このあとどうなってしまうんだ?
こうなった宏嵩は止められないし、というかおねだりしてくる宏嵩が可愛くて完敗だ。でも、まあ、宏嵩の気持ち良さそうにしてる表情見てたら、宏嵩がわたしにしたくなる気持ちもわかったし、どうにでもして欲しいという欲求を優先したくなった。