小説置き場(宏成:名古屋)

『ヲタクに恋は難しい』宏嵩×成海 激推し小説書いてます

色が付く日々

日常を噛み締める話。


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ふと思ったのは、洗面台の棚に増えた成海の歯ブラシだったり、化粧水やその他数本(成海が名称言っていたが忘れた)、俺のクローゼットに入ってる数枚の着替えに、そういえば浴室にはシャンプーとか化粧落としもある。自炊なんてしてなかったから、揃えてなかった調味料類も。
最低限の生活用品しかなかった部屋が、随分とにぎやかになっていた。それは成海が来る頻度が増え、一緒に居る時間も増えたから。

宏嵩はコーヒーをしまっている戸棚を開けた。取り出したインスタントコーヒーの瓶と最近新調したばかりの水色のマグカップ。宏嵩は使わないけれど、スティックシュガーとコーヒーフレッシュも常備している。もちろん成海が甘めのコーヒーを好むから。
ブラックコーヒーを一杯入れ、瓶を戸棚にしまい、奥の方に隠していた可愛らしくピンクでラッピングされた箱を取り出した。

(安牌過ぎたかな。)

宏嵩は換気扇の下に水色のマグカップと共に移動し、煙草へ火を付けた。

水色のマグカップと、このラッピングのものを買ったのは一週間前の休日。その日は成海も予定(小柳さんとデート中、と可愛らしく笑うツーショット写真が送られてきた)があり、宏嵩も調子の悪かったスマホを修理してもらうためにひとりで出かけたとき。
修理するより機種変の方が安く済むと店員に言われそのまま従うことにした。その待ち時間、たまたま寄った雑貨店。成海がこういうところ好きだよな、なんてふらっと入ったのだが、ふと目に飛び込んできた、桜のような淡いピンクのマグカップ。宏嵩は成海みたいな色だと、そう思って思わず手に取った。

(…店員にうまく丸め込まれたよな。)

新商品なんです、こちらペアカップです、ラッピングはサービスさせていただきます、気が付くとふたつ買ってしまっていた。流されてしまった形だったが、素直にいい買い物をしたように思えた。
俺のマグカップはもちろんあるし、成海も常備しているなんでもないマグカップを使っていた。
…お揃いをふたりで使ってみたくなったんだ。
部屋の至る所で成海の存在を感じる。そういった感覚が日に日に増えていっている。
洗面台に一緒に並んで歯磨きをしてみたり、さっぱりした~と出てくる部屋着の成海に、キッチンで料理をしてくれる後ろ姿…もうそれが日に日に増えていく。
成海はきっと知らない。俺がいちいち嬉しくなっていること。同じ空間にそれぞれ好きなことをしながら過ごすことは昔も今も変わってないけれど、変わったのは、より増えたのは、想いだ。

前にお揃いのピアスも貰ったことがあって、成海は顔を赤く染めながら渡してくれた。今ならあのときの成海の気持ちがわかる。なんだか少し恥ずかしいのだ。

(成海はピンク。)

宏嵩の中での成海のイメージカラーだった。
BL脳とはいえ、根本的なところは乙女。そういうところもさながら、ぱっと花が綻ぶような、そんな可愛らしい華やかな印象。成海の笑顔が好きだ。俺と一緒にいることで、笑ってくれるのが一番幸せと思う。

どんな反応をするだろうか。できたら喜んで、笑ってくれたら、俺も嬉しい。



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「お邪魔しまーす。」

律儀に言いながら部屋へ入った成海は、バッグの他に重そうな紙袋も持っていた。

「それ何?」
「戦利品!良作な予感!」

キラキラとした満面の笑みで答えた成海に、宏嵩もついつられて口元が緩んだ。
成海から電話で『行ってもいーい?』と言われた先程。聞けばメイト帰りだと言うので、まあ、こうやって戦利品をこちらで読もうと言うことではあったが、単純に俺と一緒に居たいと思ってくれたことが嬉しかった。

「あれ、宏嵩、カップ替えたの?」

テーブルに置かれたままになっていた、空のマグカップに目がいった。いつも宏嵩が使ってるものと違ってカラフル。

「それ、こないだ買ったんだよね。」
「宏嵩選んだの?」
「ん、まあ。」

選んだというか、選ばされたというか。メインは成海用のマグカップだったから、ペアのものがそれだったということ。
さて、どう説明しようか。

「この色いいじゃん。なんかわたしの宏嵩のイメージカラー通り。」

笑いながら言う成海に驚く宏嵩。

ひろたかって呼び名が、“広くて、高い”から空、みたいな水色。」

上手く言えないけどね、と少し照れながら言う成海が可愛らしかった。
要はニュアンス。こじつけと言ってしまえばそれまでだが、宏嵩自身と同じだった。

「俺は水色なんだ、てっきり黒とかそういうのだと思ってたけど。」
「そりゃあ、ゲームにガチモードの時は真っ黒よ、真っ黒!」

ニヤリと笑いながら言う成海は立ち上がった。

「わたしもコーヒー飲もうかな、宏嵩もおかわりする?」
「あ。」
「ん?なに?」

成海へ渡す方法を思いついた宏嵩は、思わず返事ではない声が出てしまった。

「いや、俺も飲む。お願い。」

そう言って宏嵩は水色のマグカップを成海へ渡した。少し不思議そうな顔をした成海だったが、キッチンへ向かう。

(少しベタだったな。)

成海がコーヒーの入った戸棚を開ければ、必然的に視界へ入るあのラッピング。少々ありきたりな方法ではあったが、成海に渡せればそれでいい。

「あ。」

戸棚を開けた瞬間、成海から漏れた声。

「宏嵩、これ何?」

成海の視界に入ってきたピンクのラッピングがされた箱。宏嵩の部屋に似つかわしくない可愛らしく、思わず手に取った。

「開けていいよ。」

宏嵩もキッチンにいる成海の隣へ移動した。成海は宏嵩を不思議そうな表情で見つめたが、ラッピングを丁寧に解いていく。

「これ…。」

桜のような淡いピンクのマグカップ。成海は箱から取り出すと、ニヤニヤしながら宏嵩の水色のマグカップも手に取った。

「お揃いだ!」
「うん、本当は成海のだけ買おうとしたけど、ペアって言われたから。」
「店員さんにうまくのせられちゃったね。」

成海にはお見通し。笑いながらそう言った。

「その色、成海みたいだなって思って。」
「私ってピンクのイメージ?」
「うん。」

“花が綻ぶような”とはさすがに恥ずかしくて言えなかったが、成海と同じようにイメージカラーを思っていたことを伝える。

「そっか、ピンクか。」

成海は満面の笑みをしながら、隣りに立つ宏嵩へ寄りかかった。そんな成海へ、宏嵩も腕を回す。

「宏嵩、ありがとう!嬉しい。」

成海がふたつのペアカップをカウンターに置くと、両腕を宏嵩の腰へ回し、ギュッと抱きついてきた。

「いいえ、大したものじゃないけど。」
「そんなことないよ。大切に使うね。」

宏嵩も成海をギュッと抱き締め返した。そして、成海の頭に頬を擦り寄せた。

「じゃあ、さっそくこのカップでコーヒー飲もっと。」

もう少し抱き締めていたかったが、仕方なく離れる。成海はインスタントコーヒーを取り出し、それぞれのカップに入れた。

「これも入れるでしょ。」
「ありがと。」

スティックシュガーにコーヒーフレッシュを成海へ渡すと、ギュッと手を握ってきた。そして、目が合う。成海は少し微笑むと、ん、と言いながら目を閉じる。キスをせがまれたので、宏嵩も手を握り返し、唇を優しく押し付けた。

「お揃い、増えてくね。」

唇を離した成海は笑っていた。俺が好きな、花が綻ぶような可愛い笑顔。
もっと愛でていたかったが、それよりもキスをしたい想いに忠実になろうと思ったんだ。