小説置き場(宏成:名古屋)

『ヲタクに恋は難しい』宏嵩×成海 激推し小説書いてます

その欲深さは罪なのか

酔いが本音を言わせる話。
シリアス展開注意です。


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『桃瀬、大丈夫だったか?』

樺倉さんから謎のメッセが届き、宏嵩はハテナになる。送り間違い?何の話をしているかわからないので、電話を掛けてみようと思ったと同時に、インターホンが鳴った。時間は夜の9時を回っていて、こんな夜遅くに来るとすれば尚哉?宏嵩は一旦スマホを置くと、確認もせずにドアを開けた。

「や。」

立っていたのは、なんと成海だった。

「な、成海!?どうしたの!?」

予期せぬ成海の訪問に、宏嵩は驚きを隠せない。しかも、この時間帯。

「急にごめんね。」
「いや、それより、中に入りなよ。」

そう促すと成海は玄関へ入り、宏嵩はドアを閉めた。すると、酒の匂い。
…そういえば、今日は小柳さんと飲みに行く話をしていたな。

「急にごめんね。」

成海はもう一度言うと、玄関の床へ座ってしまった。そして、壁に寄りかかる。宏嵩は成海の隣にしゃがみこんで、頭を撫でた。

「気にしてないから大丈夫。成海こそ大丈夫?具合悪い?」
「花ちゃんと飲んだんだけど、思いのほか飲んじゃって…。」

宏嵩の問いに答えなかったのは、おそらく話を半分聞こえていないからだろう。成海は頬を赤らめていて、なんだかフワフワしている。成海は酒に呑まれることはないが、こうなってるということは本人の言う通り、相当飲んだのだろう。

「花ちゃんはー、樺倉先輩が迎えに来て…先輩、わたしのことも…送ってってくれるってぇ…言ってくれたんだけど、反対方向で悪くてぇ…“宏嵩ん家に行くから大丈夫です〜”って断ったの。」

少し語尾が伸びたり、酒の影響だろうとわかる成海の話し方。一体どれほど飲んだのだろう、というか、成海がこんなに飲むことも珍しいが。

そして、ようやく合致した樺倉さんからのメッセ。成海がそう言ったもんだが、いつもより飲んでることを察してくれた樺倉さんなりの確認メッセだったようだ。あとでちゃんとお礼を言わないと。

「成海、ホントに大丈夫?」

あまりにもふにゃふにゃしている成海が心配で、宏嵩は顔を覗き込みながら聞いた。ようやく成海と目が合うと、成海はこれまたふにゃっと笑って抱きついてきた。

「具合悪い?吐く?」
「大丈夫。」

突然のハグに驚いたが、これはもうただの酔っ払い。いちいち驚いていても仕方がないと思った。

「あっち行こうよ、立てる?」
「立てる…。」

成海は身体を離すと、あっ、と小さく声を発した。

「なに?」
「…やっぱ、立てない。」

一転変わって、成海は上目遣いをしながらそう言った。酔っているせいか、瞳がうるうるとしている。

「宏嵩、抱っこして?」

成海は両手を宏嵩に差し伸べ、顔を傾げながらねだってきた。その様子が酒の影響とはいえ、宏嵩には充分過ぎるほど可愛くて仕方がなかった。

「いいよ。」

宏嵩は成海を抱きかかえて立ち上がった。所謂、お姫様抱っこ。お互いはじめての経験になった。
運動が出来なく体力がないと自信を持って言えるが、成海くらいなら軽々と持ち上げることができた。

成海はきっとこのまま寝てしまうだろうと思い、宏嵩は寝室へと向かった。

(この様子、写真撮りたい。)

自慢する相手こそいないが、この様子に少しうきうきとしてしまう宏嵩。成海はどんな様子?と視線を落としてみると、にこにことしながら宏嵩にすり寄っていた。

「どうしたの?」
「んー、なんか、嬉しくて。」

宏嵩は成海をベッドへ下ろす。腰掛けた成海へ宏嵩は冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを持ってきた。

「はい、飲んだらいいよ。」
「ありがと…。」

隣に腰掛けた宏嵩に成海がもたれかかる。表情は見えないが、今日はやたらべったりだ。
付き合いが長くなるにつれ、触れ合う機会ももちろん比例していたが、今日は特別だと思った。宏嵩自身は酒に呑まれたことはないのでどういう感情なのかわからなかったが、成海のより内部がチラチラ見えてるように思えた。

「ホントはあのまま帰ろうと思ったの…。でも、なんか、花ちゃんと樺倉先輩の文句言いながら、嬉しそうにしてる様子見たら…なんか、会いたくなっちゃって…。でも、宏嵩はゲームしてるだろうから、急に行っても…迷惑だろうな…って思ったんだけど…。」

酔いが少し落ち着いてきたのか、先程より滑らかに話す。が、どこか元気がない。

「だけど、ごめん…我慢できなかった…。」

成海は身体を離した。宏嵩は俯いたままの成海を覗き込むと目に涙を溜めていた。

「…どうして泣くの?」
「だって…。」

宏嵩と目が合うと、成海は我慢できず涙を零した。突然の涙の理由が全く分からず、宏嵩はギュッと抱き締めることしかできなかった。成海も宏嵩の背中に両腕を回して、顔をうずめた。

「わたし、好きなことひとつも我慢できないから、正直自分でも諦めてて…我慢したくないし、諦めたくないって思ってて…。」

花ちゃんは我慢しなくていいじゃない、と言ってくれた。わたしもそれはそう思ってる。我慢したくない。それが嗜好だけならそれでもいい。
でも、それだけじゃなくなってる。

「我慢したくないことの中に…もう、宏嵩が入ってて…。」

日に日に増していく宏嵩への想い。こんなに好きになると、正直思ってなかった。幼なじみの延長で、好きなことをお互い好きなようにやっていて、隠さなくてもよくて、それが楽。だけど、それだけじゃなくなってきた。楽だから、最初はそうだった。でも、今はそれだけで傍に居たいと思ってるんじゃないの。それ以上に、宏嵩が好きで、好きで、どんどん欲深くなる。さっきみたいに抱っこしてほしいし、抱き締めてほしいし、キスもしたい。だけど、好きなこともしていたい。しながら、宏嵩と一緒に居たい。
でもさ、それって強欲でしょ?わかってる、わかってるよ。でもさ…。

「宏嵩の時間を奪いたいわけじゃない、けど、もっと近くに居たくて…もっと…傍に…。」

触れていたくなる。あんなに近くでお互い好きなことをしていても、触れたくなってしまう。この感情はなんて言ったらいい?

「我慢しなくていいじゃん、ていうか、我慢しないでよ。我慢される方がつらい。」

宏嵩は抱き締める腕の力を強めた。でも、苦しくないように。

「俺、前にも言ったよね?好きなことしてる成海が好きだって。腐ってても気にしてないし、締切間に合わすために協力だってするし、俺は全力で楽しんでる成海がすごいと思うし、すごく好きだよ。」

成海がいつもどれほど一生懸命なのかは、側で、一番近くで感じているという自負がある。そういう成海が好きだし、それでも、俺に向けてくれる気持ちも増えていってくれてると、それも自負していた。変わらなくていいよ、そのままの成海でいいんだよ。

「…こうやって急に来て、宏嵩の時間…邪魔してるよ?」
「邪魔と思ってないし、むしろもっと来てよ。俺も会いたい。」
「会いたい、って言ったら、来てくれる?」
「すぐに行くよ。」
「…ゲームしてるときに、構って、って言ったら?」
「ゲーム止めて、構い倒してあげよう。」

成海が顔を上げると、宏嵩は落としたように笑っていた。その笑顔を見たらなんだか安心して、つられて笑ってしまった。ようやく表情が和らいだ成海に宏嵩は安堵した。涙が零れたが、宏嵩がキスで舐めとる。

「俺だって、相当欲張ってるんだと思ってるけど。」

日常生活の主はゲームで、最優先事項。それは昔から全くブレず、これからもたぶん変わらない。
ただ、成海が俺の彼女として一緒に居てくれるようになってからは…いや、あのとき再会したときからか、自分の中で少し変わった。ゲームも大切、だけど、成海と一緒の空間を、時間を共有したいと思った。
優先順位に成海を加えるのなら、それはもうダントツで一番。ただ、お互い好きなことはしていたいから、じゃあ、共有したっていいじゃないのか?

「俺と成海がそれでいいって思ってるんだ、誰かに言われたって変えれるものじゃないし、変えなくたっていいよ。俺は成海と一緒にいたいし、成海も俺と一緒にいたいって思ってくれてんでしょ?それでいいんだよ。」

成海の頬に宏嵩の左手が触れる。その手にそっと成海も右手を添えた。

「一緒にいたい。」
「うん、俺も。」
「触っていい?」
「もう触ってんじゃん。」

宏嵩の頬に成海も左手で触れた。

「成海、キスしてよ。」

ねだる宏嵩に、成海は軽く触れるキスをした。そして、そのまま宏嵩に抱きつくと、宏嵩も成海を抱き締める。

「わたしにもキスしてよ。」
「いいよ。」

一度身体を離し、見つめ合う。宏嵩は成海の後頭部に左手を添えてグイッと引き寄せた。唇を押し付け、深くキス。

楽だから選んだことだったかもしれないけれど、それは結局後の理由にしかならない。好きだと思ったから、傍に居たいと、ただその感情が最優先。好きなことはふたり一緒に、これは贅沢な欲。
ふたりそのまま欲にまみれたいと、思った。